声を奪われた時代に、命がけで伝えた真実
『劇場版 アナウンサーたちの戦争』(2024)
脚本:倉光泰子、山下澄人
監督:一木正恵
キャスト:森田剛、橋本愛、高良健吾、安田顕、浜野謙太
【作品内容】
太平洋戦争下、日本軍を支えたもう一つの戦いラジオによる「電波戦」。日本放送協会とアナウンサーたちの知られざる戦時活動を、事実に基づいてドラマ化。放送と戦争の関係を描いた衝撃作。
【注目ポイント】
太平洋戦争終戦から80年。銃や爆弾による戦いの影に、もう一つの見えない戦争が存在していた。それが、ラジオ放送による「電波戦」である。戦意高揚や国威発揚のために、声の力を用いた日本。ナチス・ドイツのプロパガンダ戦に倣い、ラジオでの偽情報や心理戦が積極的に展開されていった。そしてその最前線に立たされていたのが、日本放送協会(現在のNHK)と、そこで働くアナウンサーたちだった。
2023年にNHKで放送されたスペシャルドラマ『アナウンサーたちの戦争』は、こうした知られざる声の戦場を描いた社会派作品である。
主人公・和田信賢(森田剛)は、実在したアナウンサーであり、1941年の開戦ニュース、そして1945年の終戦を伝える玉音放送の前口上を読み上げた人物として知られている。ドラマでは、彼の栄光と苦悩の軌跡を通して、放送という行為がどれほど政治と結びつき、人々の運命を左右していったかを描き出す。
また、戦地に赴き戦況を伝えたアナウンサーや、女性報道者の視点からも物語は進行する。とりわけ橋本愛演じる和田実枝子の存在は、軍や国家の圧力の中で、報道の倫理と真実に向き合おうとする葛藤を象徴的に映し出している。
2024年には、本作を再編集した『劇場版 アナウンサーたちの戦争』が公開され、テレビドラマとは異なる新たな切り口で注目を集めた。報道に関わる者の責任、声が持つ影響力、そして情報とどう向き合うかというテーマは、情報化社会に生きる私たちにとって決して過去の話ではない。
この作品は、戦争ドラマという枠を超え、言葉とメディアの本質を鋭く問いかける力作である。