大人のための“復讐エンタメ”
『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(2021)
監督:堀江貴大
キャスト:黒木華、柄本佑、金子大地
【作品内容】
漫画家の佐和子(黒木華)が描き始めた新作は、夫婦と不倫をめぐる物語。ところがその内容は、まるで自分たちの生活をそのまま切り取ったようなリアルさで、夫・俊夫(柄本佑)の浮気までもが詳細に描かれていた。物語が進むにつれ、俊夫は次第に現実と虚構の境界を見失っていく——。
【注目ポイント】
結婚5年目の漫画家夫婦。夫は担当編集者との不倫に走り、妻はその事実に気づきながらも知らぬふり。しかし、ある日妻が描き始めた新作漫画の内容に、夫は凍りつく。「浮気に気づいた妻が、復讐のために教習所の先生と関係を持つ」という展開が、あまりにもリアルだったからだ。
映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は、妻が「怒鳴る」「責める」といった感情の発露ではなく、“創作”というフィクションを通して静かに追い詰めていくという、知的かつ痛快な心理戦を描いた作品だ。佐和子を演じる黒木華は、感情を押し殺したまなざしの奥に確かな怒りを秘め、終始不穏な空気を漂わせる。一方、俊夫役の柄本佑は、焦りと後悔、猜疑心の間で揺れる男の情けなさをリアルに体現している。
最大の見どころは、夫が佐和子の漫画に動揺し、翻弄され、疑心暗鬼になっていく過程。その疑念が膨らむにつれ、観客自身も「これは創作なのか、それとも現実なのか」と翻弄されていく構造が巧妙だ。
スカッとする爽快感の裏に、静かにじわじわと効いてくる“ゾクッ”とする感覚もあり、ただの浮気劇では終わらない深みがある。怒りを声ではなく筆に乗せて描ききった佐和子の知略に、思わず拍手を送りたくなるだろう。
浮気男への無言の制裁を見届けたいあなたに——。静かで鋭い復讐劇がここにある。