ラスト15分で描かれる「世界の終わり」
『回路』(2001)
監督:黒沢清
キャスト:麻生久美子、小雪、加藤晴彦
【注目ポイント】
本作は、OL・工藤ミチ(麻生久美子)と大学生・川島亮介(加藤晴彦)が出会い、やがて世界中で人々が姿を消していく現象に巻き込まれる終末型ホラーである。
インターネット回線を通じて“死者の世界”が現実に侵食し始め、画面越しに見る「影」が人間の存在を徐々に蝕んでいく。
この恐怖は感染型ウイルスのように拡散し、生者は部屋に閉じこもり、自ら命を絶ち、ついに都市がゴーストタウンと化す。
幽霊との対決を描くホラー映画だと思って観ていた者は、ラスト15分で世界の終わりを描くディストピア映画に変容することに驚くだろう。
ラストでは、生き残ったミチと亮介が東京を脱出しようとするが、すでに社会は完全に崩壊し、生者はわずかしか残っていない。
ミチが見た“人の気配がしない街”こそが、死の最終段階を象徴しており、回避不可能な終末が迫っていることを表している。観客は、幽霊によってもたらされる死よりも、“孤独に消えていく”ことの恐ろしさに直面するのである。
黒沢清監督は、存在の孤独、死後の世界への不安、そして“人はなぜつながれないのか”という根源的な問いを投げかけ、観客に静かな絶望を提示する。
演出としては照明を極限まで落とし、音を削ぎ、孤独だけが響く映像設計は、視覚的な“死の感染”をこれ以上ないほど鮮烈に伝えている。
(文・ニャンコ)
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