ハイウェイ沿いの巨大倉庫と点景化するノマドたち

『ノマドランド』(2021)

フランシス・マクドーマンドとクロエ・ジャオ【Getty Images】

監督・脚本:クロエ・ジャオ
出演者:フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ、シャーリーン・スワンキー、ボブ・ウェルズ

[作品内容]

 ウェスタン映画で描かれるような大自然の風景の中、まるで、自分の安息地を求めるかのように、RV車で旅をする、ミレニアムのノマド(放浪民)老人たちの道行。

[注目ポイント]

 2008年におきたリーマン・ショックは、アメリカでは「ミレニアムの大恐慌」と呼ばれるほど、大きな爪痕を残した。

 住宅ローンの破綻は、老人たちのセーフティ・ネットを切り崩し、そこからこぼれた人々の中から、ローンを組んだ家を失い、RV車に家財道具を積み込み、田舎にある大型の物流センターなどで働きつつ、渡り歩いていくノマド(遊牧民)化する老人が出現した。

 1939年にジョン・フォードが映画化した「怒りの葡萄」のミレニアム版ともいえる。

 その流れを取材したノンフィクション本がヒットし、映画化権を得たフランシス・マクドーマンドが主演・プロデュースを兼ね、『ザ・ライダー』で素人俳優を使い中西部のロデオ・カウボーイを描いて、様々な映画賞を獲得した、中国人の女性監督クロエ・シャオが監督。

 本作は、ヴェネチア金獅子賞をはじめ各映画際で賞を受賞した。

 映画は、アカデミー主演女優賞を2度も受賞したこともあるフランシス・マクドーマンド演じるファーンが、ウェスタン映画に出てくるような大自然の中、立ち(?)ションをする姿を、点景として描くシーンから始まる。

 これから、ハイウェイ沿いのハブ地点にポツンと存在するアマゾンの配送センター、まさに現在形の「倉庫」に向かうところ。

 そこでは、感謝祭~クリスマスのギフトの趙繁忙期に、アマゾンが「Camper Force(キャンパー・フォース)」と名前をつけ、キャンペーンロゴなども作り、積極的に雇い入れている季節労働枠に参加するのだ。

 まず、RVパークという寝泊まりをする駐車キャンプ場に登録。

 カメラは実際のアマゾン・配送センターに入り込み、役者ではないノマド労働者たちと、レクチャーなどを受けながら荷分け作業をするのがドキュメントされる。
 
 老人とはいえ、ここでは1日に荷物を持って20キロ歩きまわる荷分け作業がある。

 が、アマゾンとしては、長年企業などで働いてきた老人の方が不平など出ず、雇いやすいという利点がある。

 よく、アマゾンの撮影許可が降りたと思うが、逆に、アマゾンが見せてもよい範囲の倉庫労働の現場が撮影されている。

 ハイシーズンのみ人手が欲しいアマゾンと、拘束を受けずに働きたいノマドたちには、持ちつ持たれつの関係がある。

 ファーンは、アマゾンの繁忙期枠が終わったら、知り合ったノマドたちと情報を交換しながら、巨大配送センターのキッチンや、昨年も行ったというネブラスカ州の大農場のビーツがボタ山のように積み上げられる収穫の季節労働に移動していく。

 そこに、他のノマドたちとの交流や、定住を勧めてくる家族や男性との再会が、物語にならない流れで連なっていく。

 その合間合間には、アメリカの大自然が広がり、ファーンが抱く家族との思い出や人との繋がりから生まれてくる感情が、その風景の中に溶け込み、ゆっくりと一体化していく。

 こう書いていくと、いわゆる「ロード.ムービー」かと思われがちだけど、なんか少し違う。もっと、風景の表現に重点が置かれている。

 国立公園の絶景の中をドライブしているかのように風景が広大化し、逆に登場するファーンとそのRV車が点景化して描かれ、まるで山水画を前にしたような気分になってくる。

 広大な自然があるというアメリカと中国に共通の視覚的価値観からか、中国出身の監督・クロエ・シャオは「山水画」のように風景映画を撮っている。

 2021年のアメリカでの公開時に、IMAX上映された意味がよくわかる。小さな画面では感覚できない、宇宙のような自然の広がりが撮られている。

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