不思議と目を奪われる…。「倉庫」が登場する名作映画5選。大型写真集『ロストロフト』に影響を与えた個性豊かな作品たち

ヌーヴェル・ヴァーグ感覚による横浜倉庫街

『月曜日のユカ』（1964）

監督：中平康
脚本：斎藤耕一　倉本聰
出演者：加賀まりこ、北林谷栄、中尾彬、加藤武、波多野憲、ウィリアム・バッソン、ハロルド・S・コンウェイ

［作品内容］

　外国船が行き来する横浜港を舞台に、自由気ままに生き、愛に苦しむ、伝説の売春婦、ユカ。青春映画の傑作『狂った果実』の中平康による、まるで自主制作映画のような軽やかさ。

［注目ポイント］

　スタイリッシュな中平康の監督による、加賀まりこ版『ティファニーで朝食を』。

　もしくは、「月曜日の」というタイトルからすると、フィルム・ノワールの名手ジュールス・ダッシングが赤狩りで追われてギリシャで撮った『日曜はダメよ』の影響もあるかもしれない。

　どちらも若い売春婦が主役の大ヒット作だ。

　映画の冒頭に「ヨコハマは日本の表玄関だ」と出てくるように、外国船が行き来し、ニューヨークやロンドンに一番近く、ハイカラでモダン。

　でありつつ、売春やクスリが出回るヤバい街、1960年代の港湾都市ヨコハマを舞台に、パパや恋人や友人との間を蝶のように飛びかうコケットリー、ユカの物語。

　原作は、ハマの不良を自認していたミッキー安川が、ハマの伝説の売春婦をモデルに書き、脚本を若き倉本聰と監督の斎藤耕一（『津軽じょんがら節』）が担当した。

　デビューしたての加賀まりこは、20歳前で、超かわいくもあり、とがりまくった小悪魔演技で、誰とでも寝るが、キスだけは絶対にしないというユカを演じる。

　くるくると表情の変わる顔のアップに、ベッドでの半裸の下着姿と、本作自体、加賀まりこのアイドル映画にもなっている。

　ユカは窓から港が見える、本牧の2棟建ての小洒落た米軍ハウスに住んでいる。

　真鍮製の装飾があるベッドにソファーとテーブル、まだまだ新しかった石油ストーブにヤカンをかけたモダンな部屋は、貿易商であるパトロンであるパパが借りてくれている。

　パパのことは愛している。そして、もっと愛されたい。だけど、同じ年頃のとおるの方が好きかもしれない。

　パパを演じるのは加藤武、浜田光夫にしか見えないとおるを演じるのは若き中尾彬。

　ユカは、売春婦として男を喜ばせるのを旨としているのに、子供の時に見たキス・シーンへの恐怖心から、キスという愛の行為に嫌悪を感じるようになった。

　そのため、本当の愛がわからず苦しんでいる。パパから恋人のように愛されたいのか？

　それとも、家族のように愛されたいのか？　自分でもわからない。

　家族の愛かも？と思い、ホテル・ニューグランドのロビーでの待ち合わせに、パパとの疑似家族として、戦前からの本牧の売春婦である実の母を連れてくる。

　ニューグランドの上品な客層から、立っているだけで、強烈な違和感を感じさせる北林谷栄の演技が素晴らしい。

　この映画には、ニューグランドだけでなく、港のシンボルである赤灯台や新港埠頭、元町商店街などさまざまな港湾都市ヨコハマがロケ地として登場する。

　しかし、その映像は、エリア・カザンの『波止場』のリアルさとはすっかり異なっている。

　もっとモダンな軽みに満ちているのだ。
　
　元々、デビュー時の『狂った果実』が、同世代のフランスのヌーベルバーグ監督たちを刺激したように、中平康の自主制作映画めいた遊びに満ちている。

　無声映画的な映像の挟み込みは、アニエス・ヴァルダの『5時から7時までのクレオ』を思わせるし、タイトルのアヴェドンの写真のような白バックの加賀まりこのポートレートが動き出したら、真っ暗なクラブ「サンフランシスコ」での華やかなホステスぶりのシーンに繋がるおしゃれな導入や、パパを倉庫の埠頭から海に突き落とし、一人憮然とした表情で、埠頭周辺の街を歩き去るドキュメント的なラストなど、映画会社には理解されない様々な実験的なシーンが混ざり合い、後のATGでの監督主義映画作りの先取りになっている。

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