朝ドラとは思えぬ凄惨な戦死
森山直太朗(藤堂清晴)『エール』(2020)
原作:林宏司
脚本:清水友佳子、嶋田うれ葉、吉田照幸
演出:吉田照幸、松園武大、橋爪紳一朗、野口雄大
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、松井玲奈、森山直太朗、相島一之、松尾諭、堀田真由、野田洋次郎、佐久本宝、森七菜、仲里依紗、野間口徹、古川琴音、平田満、宮沢氷魚、古川雄大、マキタスポーツ、志田未来、吉原光夫、岡部大(ハナコ)、三浦貴大、柴咲コウ、金子ノブアキ、片桐仁、堀内敬子、古田新太、北村有起哉、菊池桃子、森山周一郎、光石研、井上順、吉岡秀隆、志村けん、薬師丸ひろ子、風間杜夫、唐沢寿明
【注目ポイント】
文通で知り合った作曲家の裕一(窪田正孝)と歌手を目指す音(二階堂ふみ)が昭和という激動の時代を音楽とともに生きる姿を描いた第102作『エール』。現在放送中の朝ドラ『あんぱん』と同様に戦争描写が大きな話題となった作品で、特に衝撃だったのは森山直太朗演じる藤堂が戦死するシーンだ。
藤堂は裕一の小学校の担任の先生。子供の頃、自分の気持ちをうまく相手に伝えることができず、運動も勉強も苦手だった裕一に藤堂だけは優しく寄り添った。周りと比べる必要はなく、「人よりほんの少し努力するのが辛くなくて、ほんの少し簡単にできること。それがお前の得意なものだ」と説いた藤堂。そのおかげで裕一は作曲家になれたと言っても過言ではない。
それだけではなく、作詞が好きだったが、家が貧しく途中で学校を辞めることになった鉄男(中村蒼)に知り合いの新聞社を紹介したり、久志(山崎育三郎)の歌の才能を見出したりと、のちに“福島三羽ガラス“として音楽界を席巻する3人の恩師となった。しかし、太平洋戦争が始まると、予備役将校として戦地に出征。多くの死者を出し、史上最悪の作戦と呼ばれた“インパール作戦”に参加することとなる。
当時、戦時歌謡で有名となっていた裕一は慰問で訪れたビルマ(現ミャンマー)で藤堂と再会。裕一は藤堂が集めてきた楽器ができるメンバーと音楽会に向けて準備を進める。ところが、突如、敵兵から襲撃を受け、裕一の目の前で藤堂は銃弾に倒れるのだ。
その朝ドラとは思えぬ凄惨な戦争描写に言葉を失った人も多いだろう。裕一もまた衝撃を受け、「自分の曲が戦う人の力になれば」という思いで戦時歌謡を作ってきたことを激しく後悔することとなる。裕一に様々な形で影響を及ぼし、朝ドラ視聴者にとっても忘れがたい人物となった。