新人とは思えない号泣必至の熱演

黒崎煌代(花田六郎)『ブギウギ』(2023)

映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』黒崎煌代
黒崎煌代 写真:武馬怜子

脚本:足立紳、櫻井剛
演出:福井充広、二見大輔、泉並敬眞、鈴木航、盆子原誠
出演:趣里、水上恒司、黒崎煌代、なだぎ武、岡部たかし、宇野祥平、楠見薫、三谷昌登、妹尾和夫、藤間爽子、翼和希、清水くるみ、片山友希、伊原六花、森永悠希、本上まなみ、中越典子、石倉三郎、三林京子、新納慎也、安井順平、富田望生、三浦獠太、吉柳咲良、陰山泰、えなりかずき、ふせえり、橋本じゅん、升毅、近藤芳正、内藤剛志、木野花、市川実和子、田中麗奈、中村倫也、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎

【注目ポイント】

 大阪の下町にある銭湯の看板娘・スズ子(趣里)が戦争や愛する人の死を乗り越え、“ブギの女王”と呼ばれる戦後の大スター歌手となっていく姿を描いた第109作目『東京ブギウギ』。この作品で華々しいドラマデビューを飾ったのが、鈴子の弟・六郎を演じた黒崎煌代だ。

 六郎は劇中で「ちょっとトロい子」と紹介されており、マイペースな性格から学校ではからかいの対象に。そのためほとんど学校には行かず、いつも拾ってきた亀たちを愛でている。だが、時に本質を突いた言葉で周りに気づきを与えることもあった。

 例えば、スズ子が東京行きを母のツヤ(水川あさみ)に反対された時のこと。両親と血が繋がっておらず、「お母ちゃんが喜んでくれたら、ほんまの家族やって思えたのに」とこぼしたスズ子に六郎は「ほんまの家族やから、きっとお母ちゃん、めちゃめちゃ寂しいねん」と語ったのだ。誰よりもピュアで言葉や行動に一切の嘘がないからこそ、人が隠した気持ちにも気づくことができる。そんな六郎に誰もが癒され、いつまでも幸せでいてほしいと願ったことだろう。

 しかし、徴兵検査で六郎は甲種合格に。最初は初めて人に認められたと無邪気に喜んでいた六郎だが、スズ子の前では「死にとうない」と本音を打ち明ける。スズ子にしがみついて泣くその姿から六郎が抱える恐怖がありありと伝わってきて、胸が締め付けられるのと同時に新人とは思えない黒崎の演技に圧倒された。

 そんな最愛の弟の戦死を知り、一時期は歌えなくなってしまったスズ子。だが、自分のために善一(草彅剛)が描き下ろしてくれた楽曲「大空の弟」をたずさえて再び舞台へ。歌い終わった後、泣き崩れるスズ子の前に六郎が幻影となって現れる。スズ子の背中をそっと押すようなその笑顔は多くの人の涙を誘った。

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