“正しさ”に縛られた男の末路
岩田剛典(花岡悟)『虎に翼』(2024)
脚本:吉田恵里香
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉、伊集院悠、相澤一樹、酒井悠
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、田中要次、平山祐介、高橋努、塚地武雅、平埜生成、三山凌輝、和田正人、小林涼子、安藤輪子、羽瀬川なぎ、毎田暖乃、田中真弓、中村育二、堀部圭亮、筒井真理子、平田満、岡田将生、余貴美子、高橋克実、沢村一樹、滝藤賢一、松山ケンイチ、小林薫
【注目ポイント】
第110作『虎に翼』からは岩田剛典演じる花岡を紹介したい。先日、映画化が進行しているという報道でも話題を集めた本作は、男性にしか門戸が開かれていなかった法曹界に女性として初めて飛び込んだ寅子(伊藤沙莉)の半生を描いた。
「婚姻女性は無能力者」とされた当時の民法に疑問を持ち、偶然知り合った法曹界の重鎮・穂高(小林薫)に誘われる形で明律大学女子部法科に進学した寅子。だが、ただ真面目に法律を学んでいるだけなのに寅子とその仲間たちは男子学生たちから「魔女部」とからかわれ、たびたび妨害に遭っていた。
ゆえに本科と呼ばれる共学の法学部に進学するにあたって寅子たちは身構えていたが、意外にも男子学生たちから好意的に受け入れられて驚く。その中心にいたのが花岡だ。貴公子のような爽やかさと紳士的な対応に、警戒心の強いよね(土居志央梨)でさえも一瞬ほだされそうに。
だが、その実、法曹界に進出しようとする寅子たちに尊敬と同時に脅威を覚え、あえて特別扱いすることで優位に立とうとしたり、寅子に惹かれながらも自分のために家庭に入ってくれる女性と結婚するなど、絶えず理想と現実との間で揺れ動く不器用な男だった。
それだけに戦後、人としての正しさと司法としての正しさが乖離していくことに誰よりも苦悩し、判事の花岡は闇市の食べ物を口にせず、栄養失調で亡くなってしまう。モデルになった人物がいるとはいえ、今までの朝ドラにはなかった餓死という死因に衝撃を受けた人も多いだろう。そんな花岡を寅子の上司となった多岐川(滝藤賢一)はあえて痛烈に批判し、「法律は人を縛って死なせるためにあるのではなく、人を幸せにするためにある」という反省から、花岡の妻が描いたチョコレートを分け合う人々の絵が新設された家庭裁判所に飾られた。