1980年代最高の日本映画は? 今こそ観るべき過激な名作5選。時代を超えて輝く珠玉の作品をラインナップ

text by 村松健太郎

1970年代、日本映画は深刻な興行不振に直面し、長らく続いたスタジオシステムが崩壊。日本映画全体は停滞期に入る。そんな状況下で迎えた1980年代は、若手監督の登場やベテランの復活、レンタルビデオの普及によって映画の楽しみ方に変化が訪れた。今回は、そんな80年代を代表する日本映画を5本紹介する。(文・村松健太郎)

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歪んだ家族のかたちを映す食卓

『家族ゲーム』(1983)

松田優作
松田優作【Getty Images】

監督:森田芳光
出演:松田優作、伊丹十三、由紀さおり

【注目ポイント】

 1981年の『の・ようなもの』で長編監督デビューを飾り、その後はシリアスドラマからコメディ、アイドル映画、ホラー、ミステリー、ラブストーリーまで幅広いジャンルを手がけた森田芳光による1983年の作品が『家族ゲーム』である。

 主演は松田優作。ドラマ『太陽にほえろ!』(日本テレビ系、1973年~)や映画『最も危険な遊戯』から始まる“遊戯シリーズ”(1978年~)、『蘇える金狼』(1979年)などでアクションスターとしての地位を確立した松田は、1980年代に入ると非アクションのドラマ作品にも積極的に出演するようになる。1981年には鈴木清順監督の『陽炎座』に出演し、その後に取り組んだのが本作である。

 物語の舞台は、受験を控えた中学三年生・沼田茂之(宮川一朗太)を中心とした家庭。成績優秀な兄・慎一(辻田順一)と比べられ、成績不振に悩む茂之のために、家族は家庭教師を雇うが、どの教師も長続きしない。そんな中、現れたのが“三流大学の七年生”という異色の経歴を持つ吉本勝(松田優作)であった。

 吉本は暴力さえ辞さない過激な指導法で茂之に勉強を叩き込み、成績は着実に上がっていく。しかし、吉本の存在はやがて、沼田家全体のバランスを崩し、家庭そのものに影を落とし始める。

 劇中に登場する“横並びで無言のまま食卓に座る家族”の場面は、本作を象徴する名シーンとして語り継がれている。また、登場人物から人間味をはぎ取り、キャラクターを記号的に映し出す手法は斬新であり、消費社会化が極限まで進んだ80年代の日本のムードをこの上なく的確に表現している。

 本作以降、森田芳光は『メイン・テーマ』(1984)、『そろばんずく』(1986)、『失楽園』(1997)、『黒い家』(1999)、『阿修羅のごとく』(2003)、『椿三十郎』(2007)など、多様な作品でヒットを連発。監督として日本映画界を牽引し続けたが、2011年、61歳で逝去。その早すぎる死は、日本映画界にとって大きな損失となった。森田はまさに、ジャンルを越えて活躍した“万能型のヒットメーカー”であった。

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