プロが選ぶ「本当に面白い2020年代の邦画」5選。すべて傑作…映画ツウが厳選する日本映画をラインナップ

text by 村松健太郎

コロナ禍によって制作も興行も多大な影響を受けた2020年代初頭の日本映画界。それでもなお、静かな余韻を残す名作や、社会の本質を射抜く秀作が次々と誕生した。今回は、2020年以降の日本映画の中から、映画通も唸る“本当に面白い”作品を5本セレクト。ジャンルもテーマも多彩な傑作を紹介する。(文・村松健太郎)

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上流と庶民、女性2人の人生が交差するヒューマンドラマ

『あの子は貴族』(2021)

石橋静河
石橋静河【Getty Images】

監督:岨手由貴子
キャスト:門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ

【注目ポイント】

 2016年に刊行された山内マリコの小説を、ENBUゼミナール出身の岨手由貴子監督が映画化。脚本も自身で手がけており、商業長編デビュー作『グッド・ストライプス』(2015)に続く、監督としての2本目の商業作品となる。

 映画『さよならくちびる』(2019)やドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系・2023年)の門脇麦と、『ノルウェイの森』(2010)、『ヘルタースケルター』(2012)などで存在感を示した水原希子がW主演を務める。共演には高良健吾、石橋静河といった実力派が名を連ねる。

 物語の主人公は、東京の恵まれた家庭に育った華子(門脇麦)。30歳を目前に恋人と別れたことで、人生の選択を迫られ、婚活を始める。そこで出会ったのが、エリート弁護士・幸一郎だった。2人は婚約へと進展していく。

 一方で、美紀(水原希子)は地方出身。苦学の末に名門大学に進学したが、経済的事情から中退し、やがてラウンジで働くようになる。32歳のある日、美紀は幸一郎と出会い、恋に落ちる。だが、幸一郎はすでに華子と婚約していた。

 1983年生まれの岨手由貴子が本作で深く考察するのは、資本家階級(ブルジョア)とアンダークラス(低所得層)、階級差のある人間模様だ。都内の一等地に豪邸を構える華子の一族も、政財界に太いパイプを持つ幸一郎の一族には敵わない。庶民からすれば「お金持ち」と一緒くたにしがちだが、両者には明確な階級差があり、岨手監督は解像度の高い演出でそれを繊細に映し出している。

 また、風景や人物の切り取り方も端正であり、東京の街を魅力的に描いた映画としても突出した出来映えを誇っている。
 
 門脇麦と水原希子という実力派女優2人の演技のぶつかり合いも見応えがある。異なる価値観と人生観を持つ女性たちが出会い、揺れ動く感情を丁寧にすくい取った本作は、社会や恋愛、そして“わたし”をどう生きるかを問いかける力強いヒューマンドラマである。

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