便座トリックという衝撃の異色回
「Wの悲喜劇」(シーズン6 第13話)
ゲスト俳優:野村宏伸
【注目ポイント】
Season6の名エピソード「Wの悲喜劇」では、シリーズでも類を見ない異色のトリックが登場する。なんと、殺人の手段として用いられたのは“便座”だ。
物語の犯人は、ごく普通のサラリーマン・欣司(野村宏伸)。彼は肥満体の妻・麗子を殺害するため、出張前に自宅のトイレの便座に細工を施す。狙いは、出張中に麗子が便座を割ってトイレに嵌まり、身動きが取れないまま餓死させるというもの。実際、計画は成功し、警察も事故死として処理する。しかし、特命係の杉下右京は、いくつかの違和感に気づく。
たとえば、欣司が出張中に一度も自宅に電話をかけていない点や、浮気の事実が発覚した点。これらから右京は事故ではなく計画的な殺人と睨み、徐々に欣司を追い詰めていく。
本エピソードが印象深いのは、奇抜なトリックだけではない。欣司の“動機”にも物語の重心が置かれている点が異色だ。彼は妻・麗子を心から愛していた。しかし、彼女はその愛を裏切るように、何度も浮気を繰り返していた。欣司は料理の腕を磨き、麗子を太らせて他の男が寄ってこないように画策する。だがその結果、今度は“肥満女性好みの男性”との浮気が始まってしまう。
やり場のない怒りと絶望の中、欣司も浮気に走るが、心の空白は埋まらなかった。「この辛さを終わらせるには、彼女を殺すしかない」——そう考えて、あの奇怪な計画に至ったのである。
また、ファンの間で語り草となっている「美和子スペシャル」が初登場する回としても注目される。亀山の妻・美和子が生み出した謎のオリジナル料理は、インパクト絶大で、ある意味この回の“もう一つのトリック”といえるかもしれない。
異常なほど現実離れしたトリックと、人間の複雑な心理描写が見事に交錯する「Wの悲喜劇」。この回は『相棒』史においても、忘れがたい問題作のひとつと言えるだろう。