兄弟の涙が交差した別れ
不死川玄弥
第19巻から始まる無限城での上弦の壱・黒死牟との死闘は、『鬼滅の刃』史上屈指の激戦として知られる。玄弥は兄・不死川実弥、時透無一郎、悲鳴嶼行冥とともに、鬼殺隊最強の敵・黒死牟に立ち向かう。
戦いの中、玄弥は自身の命を削りながら鬼化し、黒死牟の刀を喰らうことでその血鬼術を体内に取り込み、鬼の力を帯びた銃弾で応戦。彼の無謀とも言える行動は、敵に決定的なダメージを与える一因となった。しかし、勝利の兆しが見えた直後、玄弥は黒死牟に身体を真っ二つにされ、再起不能の致命傷を負う。それでもなお、最期の一瞬まで戦意を失わず、黒死牟の動きを封じる決定的な一手を放つ。そして、その命は尽き、玄弥の身体は塵となって消えていった。
この激闘の裏には、不死川兄弟の確執と、その奥に秘められた深い愛情があった。実弥は、鬼になった母を自らの手で斬った過去を背負い、その罪悪感と責任感から鬼殺隊に身を投じた。弟・玄弥にだけは、血なまぐさい道を歩んでほしくないという思いから、あえて冷たく突き放していたのである。
一方、玄弥はそんな兄と肩を並べて戦いたいという強い憧れを抱いていた。母をめぐる過去の口論で兄に浴びせた言葉を悔い、「柱になって、兄に認められたい」という一心で命を懸けて戦っていたのだ。
そして、死の間際。玄弥は涙ながらに「ごめんね」と兄に謝り、実弥はこらえきれない想いを込めて「幸せになってほしい」と言葉を返す。その瞬間、二人の間にあったわだかまりは、深い涙とともに溶けていく。
強がりで不器用だった兄弟が、ついに素直に向き合えたこのシーンは、『鬼滅の刃』全編の中でも屈指の感動的な名場面として、多くの読者の心に深く刻まれている。