たった一本で心に刻まれた、未来を絶たれた才能

ドミニク・ダン(1959~1982)

代表作:『ポルターガイスト』(1982)

【注目ポイント】

 1982年、映画『ポルターガイスト』で注目を浴びた女優ドミニク・ダン。わずか一本の代表作で広く名を知られることとなった彼女は、1959年11月23日にカリフォルニア州で生まれた。テレビドラマへの出演を重ね、少しずつキャリアを積んでいたドミニクにとって、『ポルターガイスト』は飛躍のきっかけとなる作品だった。不可解な現象に巻き込まれる家族の一員として出演し、リアルな恐怖や葛藤を自然な演技で表現した。

 だが、彼女の未来は突然奪われてしまう。1982年10月30日、自宅で元交際相手に襲われ、首を絞められて意識不明の重体に。昏睡状態のまま数日が過ぎ、医師によって回復の見込みがないことが告げられた。11月4日、家族は深い悲しみのなかで、生命維持装置を外すという苦渋の決断を下す。母親の願いにより、ドミニクの腎臓と心臓は移植を必要とする人々に提供された。彼女の命はそこで終わりを迎えたが、その身体の一部は他者の命を救い、静かな形で生き続けることとなった。

 犯人には懲役6年半の有罪判決が下されたが、実際の服役期間はわずか3年ほどに過ぎず、この事実は世間に深い憤りを与えた。理不尽な判決への怒りと悲しみを抱えたドミニクの父は、雑誌『ヴァニティ・フェア』の依頼でこの裁判の傍聴記を執筆。感情を抑えつつも緻密に綴られたその文章は大きな反響を呼び、彼はのちに有名人や富裕層に関わる事件・裁判を専門とするノンフィクション作家としても活動した。

 ドミニク・ダンの人生は短く、出演作も限られていた。それでも彼女が放った光は、今なお映画ファンの心に焼きついている。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!