伏線を回収しきらないバカリズム脚本の妙

『ホットスポット』(日本テレビ系、2025)

市川実日子
市川実日子【Getty Images】

脚本:バカリズム
出演者:市川実日子、角田晃広、鈴木杏、平岩紙、木南晴夏

【作品内容】

 富士山の麓で娘と暮らす遠藤清美(市川実日子)は、地元ホテルで働くシングルマザー。ある日、事故寸前に地球外生命体に救われたことを友人に話した途端、平穏な日常が少しずつ狂い始めていく。

【注目ポイント】

 バカリズム脚本による日本テレビのドラマ『ホットスポット』は、田舎町のビジネスホテルを舞台に描かれるSFヒューマンコメディ。主人公のシングルマザー・遠藤清美は、ある日、職場の先輩・高橋孝介(角田晃広/東京03)が実は宇宙人であることを知ってしまう。そんな高橋の特殊能力を頼りにしながら、清美は日常のトラブルや地元で起こる小さな事件を次々と解決していく。

 角田晃広演じる高橋のミステリアスでどこか憎めないキャラクターや、随所に挿し込まれる意味深な小道具やセリフ、そしてテンポの良い会話劇が視聴者の心を掴み、放送中は毎週SNS上で伏線考察が飛び交うなど、大きな盛り上がりを見せた同ドラマ。

 そして迎えた最終回では、多くの伏線が見事に回収された。たとえば、作中でたびたび示唆されていた謎の人物「F」の正体がタイムリーパーの古田(山本耕史)と明らかになり、幽霊が出ると噂されていたホテルの角部屋の真相も解明された。また、タイトル『ホットスポット』の意味も明かされたのだ。

 しかし一方で、最後まで明かされなかった未回収の伏線もある。たとえば、中本こずえ(野呂佳代)が撮影したスリーショット写真の背後に不穏な影の人物が写り込んでいた件。その人物の正体は明かされることなく、物語は幕を閉じた。

 また、あやにゃん(木南晴夏)がぽつりと口にした「どら焼きはどこの星でも美味しい」という一言も、宇宙人の存在に関わる伏線のようにも感じられたが、特に回収されることはなかった。

 これらの伏線が未回収のまま終わったのは、単なる見落としではない。むしろ、それこそがバカリズム脚本の妙と言えるだろう。あえてすべてを語らず、余白を残すことで、物語は放送終了後も静かに広がり続ける。視聴者の想像力に委ねられたその余韻こそ、本作が生んだ最大の魅力なのかもしれない。

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