大河ドラマ『べらぼう』“最も演技が素晴らしい悪役”5選。これぞ怪演…前半戦でもっとも存在感を発揮した役者をセレクト
text by 西田梨紗
大河ドラマ『べらぼう』前半戦で印象的だったのは、主役だけではなく“悪役”たちの存在感。冷酷、狡猾、妖艶…それぞれ異なる悪の顔を魅せた5人の俳優が放った演技の妙と見どころを振り返る。(文・西田梨紗)
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サイコパスな藩主を怪演
えなりかずき(松前道廣)
【注目ポイント】
松前家当主・道廣(えなりかずき)は登場とともに視聴者の恐怖心を掻き立てた。道廣が本作に初めて登場したのは、第21回「蝦夷桜上野屁音」である。
治済(生田斗真)や意次(渡辺謙)も集う宴において、道廣は家臣の妻を桜の木に縛り付け、銃撃の標的にしていた。火縄銃を構える道廣の表情から察するに、弾を放つのを楽しんでおり、自身の行動に恐れをまったく感じていない。
女性の頭上に設置された皿に銃弾が当たると、皿の割れる音と彼女の悲鳴が静まり返った宴に響き渡っていた。
さらに、第24回「げにつれなきは日本橋」では、道廣は「まこと 熊のごとき大男であることよ 果たしてそなたは人か熊か確かめねばな」とおだやかな口調で言いながら、杭につないだ家臣に銃を向けていた。道廣は悲鳴を上げる家臣を笑いながら見つめるが、その目は冷酷で、笑顔の奥には悪辣さが渦巻いていると感じた。
道廣の異常性は、まさにその「笑顔」に集約されている。残虐な行為を平然と、そして愉しむように行う彼の姿は、理性の仮面をかぶった狂気そのものだ。その微笑を一目見ただけで、彼の素性を知らぬ者でさえ、何か恐ろしいものが潜んでいると察するだろう。
えなりかずきは、この道廣という悪役を、繊細な演技で鮮烈に体現している。声のトーン、視線の揺れ、口元に浮かぶ笑み——すべてが綿密に計算され、松前藩という組織に巣食う闇を印象づける。そしてそれは、本作『べらぼう』にスリリングな緊張感をもたらしている。