おいしそうに何かを食べる姿が怖い
生田斗真(一橋治済)
【注目ポイント】
治済(生田斗真)は、緊張感が極まる場面や重大な局面において、常に何かを“おいしそうに”食べている。視聴者の不安をよそに悠然と箸を動かすその姿は、異様な不気味さを醸し出し、本作の中でもひときわ異質な存在感を放っている。
たとえば第16回「さらば源内、見立は蓬莱」では、「薩摩の芋はうまいのう」とつぶやきながら焼き芋を頬張るシーンが描かれる。しかし、この焼き芋は、死んだ源内(安田顕)の遺稿を燃やした焚火で焼かれたものだ。治済はただ焼き芋を食べているだけに見えるが、その所作からは明確な悪意が滲み出ており、彼が源内の死に深く関与しているのではと観る者に疑念を抱かせる。
また、第21回「蝦夷桜上野屁音」では、道廣(えなりかずき)が女中を火縄銃の的にして周囲を凍りつかせている最中、治済は何事もないかのように箸を進めていた。恐怖と狂気が渦巻く空間の中で、ただ一人、彼だけがその空気に取り込まれることなく、無関心に食事を続ける。その様子が、かえって異様さを際立たせる。
同話ではさらに、意次(渡辺謙)が「女中を殺めてしまうやも」と躊躇した際、道廣が「的は当家からいくらでもお出ししますゆえ」と言い放つと、治済は腹の底から笑い声をあげた。その笑いは苦笑や皮肉ではない。人の命が踏みにじられる場面に、心の底から快楽を見出すような、純粋で無邪気な愉悦が感じられる。
治済の表情を見ていると、源内や家基(奥智哉)の死の黒幕ではないかと疑いたくなる。生田の演技は、本作を魅力的にしている隠れた要素の一つであるホラーサスペンスを見事に引き受けていると言えるだろう。