偶然にしては出来すぎている最初の襲撃
竈門家が鬼舞辻無惨に狙われた理由
本作『鬼滅の刃』は、山奥で平和に暮らしていた竈門家が鬼に襲われるという悲劇的な事件から幕を開ける。そして、この襲撃を行った鬼が、鬼たちの頂点に君臨する存在・鬼舞辻無惨であったことが後に判明する。
鬼舞辻無惨は、人間を鬼へと変貌させることができる唯一の存在であり、その姿を捉えることは極めて困難である。鬼殺隊は、千年もの長きにわたり無惨の行方を追い続けてきたが、決定的な手がかりを得るには至っていなかった。
作中では、無惨が「太陽を克服できる鬼」を作り出すことを目的に動いていたことが語られる。その延長として竈門家が襲われたとも取れるが、なぜ数ある人間の中から炭治郎の家が標的となったのか、その具体的な理由については、物語本編では明確にされていない。
ただし、単行本に収録されたおまけページにおいて、竈門家の住んでいた土地は、かつて鬼舞辻無惨が最も恐れた剣士・継国縁壱が暮らしていた場所であったことが示されている。これが偶然なのか、あるいは無惨にとっての“因縁の地”であったのかは不明であるが、彼の行動原理に何らかの影響を与えていた可能性は否定できない。
さらに、竈門禰豆子が後に「太陽を克服した鬼」となることも、物語に謎を投げかける要素である。偶然にしては出来すぎており、竈門家そのものに“何か特別な意味”があったのではないかという疑念が残る。読者としては、あの襲撃が単なる思いつきや偶発的な暴力ではなく、より深い背景や選別があったのではと考えずにはいられない。
鬼舞辻無惨の最初の一手とも言えるこの襲撃。物語全体を動かしたこの事件の真意が語られぬまま残されていることは、本作における大きな未解決の伏線の一つである。