すべての始まりにいた“名もなき存在”

鬼舞辻無惨を鬼に変えた医師の正体

『鬼滅の刃』
ufotable公式Instagramより

 最強の鬼として君臨した鬼舞辻無惨も、もとは病弱な人間であった。彼は平安時代に生を受け、胎児の段階から何度も心臓が停止しかけるという、極めて不安定な生命状態にあった。誕生後も体調は優れず、当時の医師からは「20歳まで生きられない」と断言されるほどであった。

 そんな無惨を救おうと尽力したのが、一人の心優しき医師である。この医師は、青い彼岸花を成分とする薬を無惨に投与した。結果として、それが無惨を人間から鬼へと変貌させる引き金となったのである。

 しかし、薬の効果が現れるまでには時間を要した。病に苦しむ無惨は即効性を感じられず、やがて激しい怒りを覚え、恩人であるはずの医師を自らの手で殺害してしまった。皮肉なことに、その直後から無惨の肉体は急速に回復し、同時に異形の存在としての鬼の力が芽吹くこととなった。

 ここで疑問となるのが、この医師の正体である。なぜ彼は“青い彼岸花”の存在を知っていたのか。なぜそれを人間に用いようとしたのか。さらには、鬼という前例のない存在を生み出す薬理作用を、なぜ知っていたのか。そのいずれについても、作中で明かされることはなかった。

 また、無惨が患っていた病についても詳細は不明のままである。現代医学で照らし合わせても説明のつかない、生まれながらの致命的な不調——この不可解な疾患が、結果として“鬼の原点”を生む原因となった。

 物語の始まりにして、最深部に存在するこの“名もなき医師”。彼の知識、動機、背景すべてが闇に包まれており、『鬼滅の刃』という壮大な叙事詩の中でも、最大級の未解決要素といえる存在である。

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