あまりにも雑すぎる“一目惚れの代償”
『プラットホームの女』(第9話)
【あらすじ】
23歳の銀行員・直木純一(なおき じゅんいち)は、毎朝の通勤電車で見かけるマスク姿の美人に一目惚れする。勇気が出せず声をかけられずにいたが、喪黒福造にそそのかされ、ついに彼女と会う約束を取り付けた。
自宅に招いた彼女がマスクを外すと、そこには思った通りの美しい顔。しかし、その素顔は整形ではなく──まるで仮面を貼りつけたような不自然さ。やがて彼女がその仮面を割ると、現れたのはゾンビのようにおぞましい素顔だった。
喪黒の言葉が響く。
「顔に幻想を抱くと、大けがをしますよ……」
【「ドーン!」引きポイント】
いやいやいや、この話の「ドーン!」度は、現代で考えると相当に高い。
喪黒の台詞「顔に幻想を抱くと大けがをしますよ……」を、「外見に惑わされず中身を見ろ」という戒めとして解釈すれば理解はできる。実際、人間性の良さは表情や雰囲気に表れるし、性格が良ければ見た目も可愛らしく映る──これが筆者の持論である。
だが、本作の描写はあまりに乱暴だ。一目惚れした側の直木は単に外見に惹かれただけ。なのに女性の素顔を“ゾンビ”のように描き、恐怖の対象にしてしまうのは、あまりに酷ではないか。
むしろ、この物語で本当に掘り下げるべきは、整形に頼らざるを得なかった女性の葛藤だったのではないか。「勝手に一目惚れされた挙げ句、素顔を見られただけでドン引きされる」──彼女の立場を思うとやりきれない。
せめて最後に、直木が「素顔がどうであろうと、あなたが好きです」と言う展開であれば、救いがあっただろう。もっとも、それでは“笑ゥせぇるすまん”らしいブラックなオチにはならないのだろうが……。
結局、理不尽さとやりきれなさがないまぜになり、筆者は「ドーン!」と引かずにはいられなかった。