「不安を無くす薬」が呼び込んだ最悪の結末
『切る』
【あらすじ】
22歳の理容師見習い・出無野風太(でぶの ふうた)は、緊張のあまり手が震えてしまい、一度もカミソリを客に使ったことがなかった。
そんなある日、床屋に現れた喪黒福造が、謎の“薬用タバコ”を差し出す。
「これを吸えば、不安が消えて自信がつきますよ」
恐る恐る吸ってみた出無野は、嘘のように落ち着きを取り戻し、見事に客のひげ剃りを成功させる。店主にも褒められ、感激した出無野はお礼を言おうと喪黒のもとへ。だが、返ってきたのは冷酷な宣告だった。
「このタバコは一度きり。一箱分だけです。続きが欲しくなった頃が……あなたのお支払い時でございます。……ドーン!」
やがてタバコを切らした出無野は再び緊張に呑まれ、ついに客の喉元をカミソリで切ってしまう──絶叫と共に物語は幕を閉じる。
【「ドーン!」引きポイント】
このエピソードは、まさに“救いなきドーン!”回。臆病だが真面目で善良な若者を、喪黒はなぜここまで追い詰めなければならなかったのか。
小さな街の理髪店で、先輩や同僚と住み込みで懸命に働く姿は、時代を越えて共感を呼ぶ。それなのに、未来ある青年を殺人犯に仕立て上げるのは、あまりに酷だ。
たとえるなら──『サザエさん』で、三河屋のサブちゃんが配達中に誤って人をひき殺してしまうような衝撃(笑)。視聴者の心を容赦なくえぐる展開に、ただただドン引きするしかない。
結局これは、喪黒福造による「暇つぶしのいじめ」以外の何ものでもないのではないか。
一箱きりのタバコを餌に、若者を破滅へと突き落とす。そこには教訓すら霞んでしまうほどの残酷さが漂う。
救いの欠片もない──まさに『笑ゥせぇるすまん』らしい、後味最悪の一篇である。