タダより高いものはない…モデルハウスの正体
『夢のマイホーム』
【あらすじ】
41歳のサラリーマン・一戸立男(いっこ たてお)は、住宅ローンが通らず夢のマイホームを諦めかけていた。そこへ喪黒福造が現れ、甘い話を持ちかける。
「実はある住宅会社が造ったモデルハウスなんですが、モニターとして住んでくれる人を探しているのですよ。住み心地の良し悪しを定期的に報告するだけで、家はあなたのものに──」
夢のような条件に飛びついた一戸一家。案内された家はトンネルを抜けた先にあり、海が見渡せる快適な住まいだった。だが外に出てみると、その家は断崖絶壁に垂直に張り付くように建っていたのだ。
「おっとっと、この図面はこうして見るんですね。狭い国土なんですから、今までの水平思考じゃダーメ。これからは垂直思考の時代ですよ。オーホホホホホ!」
喪黒の笑い声が響く。
【「ドーン!」引きポイント】
「なんなの、この話!?」と、初見の誰もが呆然としたことだろう。伝えたいのは「タダより高いものはない」という戒めか。
喪黒が口にする「今までの水平思考じゃダーメ、これからは垂直思考の時代」というセリフも謎めいている。楽を求める弱者は奈落の底へ落ちろ、という冷酷な皮肉なのか──(そんな時代はもうとっくに来ている気もするのだが)。
特に恐ろしいのは、一戸が崖から落ちそうな家族を前にしてなお、笑みを浮かべているシーンだ。家族の幸せのために最善を尽くした──そんな自己暗示を抱えたまま狂気に陥る姿に、背筋が凍る。
何だかんだ憶測は尽きないが、次元を超えるような発想で読者を震撼させる藤子不二雄Ⓐ先生の想像力には、ただただ圧倒される。