椅子と一体化した男の運命
『椅子男』
【あらすじ】
38歳の安楽一寿(あんらく かずひさ)は、小さな印刷会社を営みながら、狭い長屋で妻と数人の子どもたちと暮らしていた。寝る場所も満足に確保できず、毎晩、職場の椅子を並べてベッド代わりにし、疲れを癒す日々。
ある夜、喪黒福造が現れ、バー〈魔の巣〉へと案内される。喪黒から贈られたのは、ビッグサイズでゴージャスなベッド。安楽は喜んで家に持ち帰るが、ベッドはすぐに妻と子どもたちに占領され、彼の寝床にはならなかった。
失望する安楽に、再び喪黒が近づく。
「私があなたをゆっくり眠れるようにして差し上げましょう──椅子で! 椅子こそが、あなたにとって究極の安眠場所なのです。……ドーン!」
翌朝、印刷所に泊まっていた安楽を心配した妻が電話をかける。受話器の向こうから安楽の声が響く。
「ああ、大丈夫だよ。ぐっすり眠れたよ……きっとこれからもな」
しかしそこにいたのは、木の椅子と一体化した“椅子男”と化した安楽だった。
喪黒の高笑いがこだまする。
「いやぁ、安らかに眠れる場所というのは、人それぞれですなぁ。素晴らしい寝場所が得られて……安楽さん、よかったですねぇ。オーホホホホホ!」
【「ドーン!」引きポイント】
…もう、いい加減にしろと言いたくなる話である。
安楽さん、ほんと何も悪くない。むしろ、家族のために懸命に働き、ベッドを子どもたちに譲り、自分は笑顔で見守る──良き父親そのものだ。そんな彼が「椅子男」として一体化する結末なんて、あまりに理不尽で涙なしには見られない。
まだ「夫婦仲が冷え切り、子どもにもバカにされているダメ亭主」のオチなら、ブラックユーモアとしてのカタルシスも少しはある。だが、この安楽さんは違う。まさに犠牲者だ。
さらに気になるのは、その後。もし奥さんが会社に駆けつけ、“椅子男”となった夫を目の当たりにしたら──彼女はどんな思いを抱くのか。想像するだけで胸が締め付けられる。
総じて言えるのは、喪黒福造よ、もうちょっと心の隙間に付け込む相手を選んでくれ!ということ。今回ばかりは「これは心の隙間でもなんでもないだろ!」と声を大にしてツッコミたくなる一話だ。
(文・ZAKKY)
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【了】