最も面白い吉田修一原作の日本映画は? 珠玉の良作5選。見ごたえが凄まじい…心にズシリと残る作品をセレクト
小説家・吉田修一は、鋭い観察眼と豊かな筆致で人間の機微を描き、多くの読者を魅了してきた。彼の作品はジャンルの垣根を越え、心温まる青春譚から社会の闇をえぐるサスペンス、複雑な人間関係を描いた恋愛劇まで幅広い。そんな吉田文学は映画界でも高く評価され、数々の名作がスクリーンに息づいている。本記事では、映画化された作品の中から特に秀逸な5本を厳選し、その魅力とともに紹介する。(文・阿部早苗)
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何気ない日常の尊さに心が温まる青春映画の金字塔
『横道世之介』(2013)
監督:沖田修一
脚本:沖田修一、前田司郎
原作:吉田修一
出演:高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、伊藤歩、綾野剛
【作品内容】
1987年春、長崎から上京した18歳の横道世之介(高良健吾)は大学生活で倉持(池松壮亮)や加藤(綾野剛)、祥子(吉高由里子)、千春(伊藤歩)らと出会う。かけがえのない1年間を描いた物語。
【注目ポイント】
数々の小説が映画化されてきた作家・吉田修一。彼の作品に共通するのは、特別な出来事ではなく、ありふれた日常に潜む人の機微や、不器用ながらも温かい人間関係を丁寧に描く視点だ。
なかでも多くの映画ファンに愛されているのが、2013年公開の『横道世之介』。原作は、2008年から2009年にかけて「毎日新聞」で連載された同名小説で、監督は『南極料理人』などで知られる沖田修一。主演は高良健吾と吉高由里子が務めた。原作は第23回柴田錬三郎賞を受賞しており、吉田の代表作の1本として知られている。
舞台は1987年の春。長崎から東京の大学へ進学した18歳の横道世之介(高良健吾)は、どこにでもいるような平凡な青年。少し抜けているが、人懐っこく明るい性格が、同級生や恋人、周囲の人々の心にいつしか温かな痕跡を残していく。
ひときわ印象的なのが、財閥令嬢・祥子(吉高由里子)の存在だ。釣り合わないように見える二人の関係は、どこか微笑ましく、爽やかに進んでいき、観る者の心を自然と温めてくれるといえるだろう。
池松壮亮演じる同級生・倉持、綾野剛の加藤、伊藤歩の千春といった脇を固める俳優陣も魅力的で、彼らと世之介が織りなす人間模様は決して派手ではないものの、一つ一つの会話や出来事がじんわりと心に染みていく。
ラストまで大きな事件も劇的な展開もないが、スクリーン越しに世之介という人物が、そこに存在していると感じさせられるのだ。そして観終えた後にふわりと残る幸福感がある。それこそが、この作品の最大の魅力だ。
原作には続編もあり、青年から大人へと歳を重ねる世之介の姿が描かれている。変わらぬ世之介らしさは、読む者にまたささやかな幸福をもたらし、映画化を願うファンの声も少なくない。