救いなき閉鎖空間で浮かび上がる孤独
『楽園』(2019)
監督:瀬々敬久
脚本:瀬々敬久
原作:吉田修一
出演:綾野剛、杉咲花、村上虹郎、片岡礼子、黒沢あすか、石橋静河、根岸季衣柄本明、佐藤浩市
【作品内容】
青田に囲まれたY字路で少女誘拐事件が発生する。未解決のまま12年が過ぎ、同じ場所で再び少女が失踪。そんな中、孤独な男・豪士(綾野剛)が疑われ逃走する。
一方、限界集落で暮らす養蜂家・善次郎(佐藤浩市)は、ある出来事をきっかけに村八分にされてしまう。
【注目ポイント】
吉田修一の傑作短編集『犯罪小説集』に収められた「青田Y字路」「万屋善次郎」を原作に、瀬々敬久が監督・脚本を務めた映画『楽園』は、実在の事件から着想を得た物語を巧みに再構成した作品だ。原作は吉田のサスペンスの名手としての側面が強く出た作品となっており、『黒い下着の女 雷魚』(1997)をはじめ、実在の事件にインスパイアされた作品を多く手掛けてきた名匠・瀬々敬久の手腕も相まって、観ていてヒリヒリする映画に仕上がっている。
物語の舞台は、青田に囲まれたのどかな地方。Y字路で起きた少女誘拐事件が未解決のまま12年が過ぎた後、同じ場所で再び少女が失踪する。容疑者として浮上するのは、村で孤立する寡黙な青年・豪士(綾野剛)。その一方で、村に溶け込もうと努力する養蜂家の善次郎(佐藤浩市)もまた、思わぬ形で村八分にされ、追い詰められていく。
誘拐事件の被害者である少女の親友・紡(杉咲花)、犯人と疑われる豪士、そして事件現場近くに住む善次郎。誘拐事件を軸に、一見すると犯人捜しの物語のようでありながら、実はそれぞれが孤独を抱え、「楽園=救い」のようなものを模索しながら生きる3人の姿を描いている。
さらに、豪士と善次郎の描写からは、閉鎖的な限界集落が生み出す集団心理の恐ろしさが浮き彫りになる。犯人捜しに終始し、誰かを排除することで安心感を得ようとする構造に、人々が無自覚に加担してしまう点が、事態を一層恐ろしいものにしている。
吉田修一作品の映像化の中でも、徹底して救いのない作品である。観る者へ「人間の本質とは何か」「社会の闇とは何か」という問いを強く投げかける一作だ。