将棋初段の腕前で原作キャラを完全再現

神木隆之介

神木隆之介【Getty Images】
神木隆之介【Getty Images】

【注目ポイント】

 2歳から芸能活動を始め、人生の大半を役者として歩んできた神木隆之介。日本映画やドラマの数々に欠かせない存在となった彼の姿は、多くの人の記憶に深く刻まれている。そんな彼の代表作のひとつが、映画『3月のライオン』(2017)だ。

 本作は、羽海野チカ原作の将棋を題材とした人気少年漫画の実写化で、累計発行部数は1000万部を超える話題作だ。神木隆之介が演じる主人公・桐山零は、幼い頃に交通事故で家族を失い、父の友人である棋士・幸田家に引き取られる。しかしそこでの暮らしは冷たく、やがて家を出ざるを得なくなる。学校でも孤独を抱え、居場所を失った零は、将棋だけに自分の存在を支える拠り所を見出していく。

 そんな彼の人生に光を差し込むのが、川の向こうに暮らす川本家の三姉妹との出会いだ。彼女たちとの温かな交流を通じて、零は少しずつ心を開き、孤独と向き合いながら再び生きる希望を見出していく。深い喪失と救いを描く、心を震わせるヒューマンドラマである。

 20歳の頃に原作を読んだという神木は、将棋のルールは分からなくても、登場人物たちの心情を深く描く作風に感動したという。そんな神木隆之介が演じた零は、分厚いメガネと、伸び放題の髪の毛で表情を隠すような仕草を捉えるだけでなく、零が抱える心のうちを繊細に表現しており、原作ファンも太鼓判を押す仕上がりに。

 肝心の将棋は、撮影の2ヶ月前から練習に取り組み、アマチュア初段の資格を取得した。その際、役作りの一環として郷田真隆と羽生善治先生の王将戦を見た際に、魂のぶつかり合いを感じたという。神木隆之介がプロの棋士から感じた熱は、本作にも活きている。原作に触れた時の神木隆之介と同じように、将棋のことはよく分からないという観客にも、その熱意がありありと伝わる作品になっている。

 さらに、本作を支えるのは主演・神木隆之介だけではない。佐々木蔵之介、伊藤英明、染谷将太といった実力派俳優が顔を揃え、それぞれが演じる棋士の盤に向かう姿勢や所作、眼差しからは、強烈なキャラクター性がにじみ出ている。将棋という静謐な世界を通して、彼らが人生の“これだ”と信じるものに全身全霊を賭ける熱がスクリーンいっぱいに弾け、観る者の心を強く揺さぶる。

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