心の闇に迫る繊細な演技──多彩なジャンルで輝く4作品
稲垣吾郎
【主な日曜劇場主演作】
『催眠』(2000)『Mの悲劇』(2005)『佐々木夫妻の仁義なき戦い』(2008)
【注目ポイント】
日曜の夜、家族がテレビの前に集い、感動や興奮を分かち合う──そんな日本のテレビ文化を象徴してきたのが「日曜劇場」だ。その舞台で、これまでに4作の主演を務めてきたのが稲垣吾郎である。
初主演となったのは、2000年放送の『催眠』。同名映画の続編として制作された本作は、催眠術が絡んだ連続殺人事件から1年後を描く心理サスペンスで、人間の心の闇に深く迫った異色の作品となった。
2002年の『ヨイショの男』では、「あけぼの保険」の営業マン・桜井孝太郎を演じた。人を持ち上げる“ヨイショ術”を武器に出世を重ね、ついには課長昇進の内示を受けるが、直後に会社が外資系に吸収合併され、これまで築いてきた立場が一変する。軽妙なコメディの中に、出世競争や組織の理不尽、人との関係に揺れる人間模様が描かれた社会派ヒューマンドラマであった。
2005年の『Mの悲劇』は、復讐や裏切り、そして和解を軸に、登場人物たちの過去と心の葛藤に迫る心理サスペンスだ。主人公が巻き込まれる事件をきっかけに、それぞれの人物が抱える秘密や傷が浮かび上がり、物語は予測不能な展開を見せていく。複雑な人間模様と心情描写が光る、日曜劇場らしい重厚な一作である。
そして2008年の『佐々木夫妻の仁義なき戦い』では、弁護士夫婦による泥沼の離婚劇を描きながら、家族や夫婦のかたちにユーモアとシリアスさを交えて迫った。法律と感情が交錯する中、人間の本音や弱さが丁寧に描かれている。
ジャンルは異なれど、稲垣吾郎が主演を務めた4作はいずれも、人間の内面に深く切り込む力作ばかり。彼の繊細な演技が映し出す心の揺れや葛藤は、視聴者に問いを投げかけ、日曜劇場が大切にしてきた心を動かすドラマとして強く印象に残っている。