5時間超えの作品も…長尺なのに超面白い日本映画5選。ずっと観ていたい…息もつかせぬ完成度を誇る名作をセレクト

text by 阿部早苗

3時間近い上映時間でも、「長い」と感じる暇もなく引き込まれる映画がある。壮大な物語、緻密な演出、息を呑む展開。今回は、長尺でありながら“超面白い”と断言できる海外映画5本をセレクト。重厚なテーマから圧巻のスリルまで、その魅力と見どころを読み解いていく。(文・阿部早苗)

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圧巻の面白さを誇る5時間17分

『ハッピーアワー』(2015)

監督の濱口竜介【Getty Image】
濱口竜介監督【Getty Images】

監督:濱口竜介
キャスト:田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りら

【作品内容】

 なんでも話せる親友同士の桜子、あかり、芙美、純。30代後半を迎えた今でも、変わらず行動を共にすることの多い4人だった。そんなある日、あかりは、純が離婚協議中であることを偶然知ってしまう――。

【注目ポイント】

『悪は存在しない』『ドライブ・マイ・カー』と世界的な評価を受け続けている濱口竜介監督。その国際的飛躍のきっかけとなったのが、2015年に発表された映画『ハッピーアワー』である。主演の4人は、スイス・ティチーノ州で開催された第68回ロカルノ国際映画祭において、日本人として初めて最優秀女優賞を共同受賞する快挙を成し遂げた。

 映画の上映時間が3時間を超えると聞いただけで、身構えてしまう人も少なくない。本作は5時間17分という圧倒的な長尺でありながら、その数字すら忘れさせる面白さを持つ。

 物語は、30代後半の女性・桜子、あかり、芙美、純の4人の日常を丁寧に描いていく。深い友情で結ばれているように見える彼女たちだが、ある日、純が離婚協議中であることが明らかになったことで、その関係に微かな変化が生じはじめる。惰性のように続いてきたつながりが崩れかけたとき、彼女たちは自分自身と、そして互いとの関係をあらためて見つめ直していくのだ。

 本作を語るうえで欠かせないのが、劇中に登場する「重心」をテーマにしたワークショップのシーンだ。一見、物語の主筋とは直接関係なさそうに見えるこの場面が、実はラストまで意味を成している。
 
 というのも「重心」というテーマは、映画の通奏低音になっており、ヒロイン4人の身体の重心が時にダイナミックに、時に微細に変化する様子が長い時間を通して丹念に見つめられるのだ。

 たとえば、看護師のあかりは、身体の不自由な患者を抱っこして車椅子に乗せるアクションが何度も描かれる。映画後半では彼女自身、階段で足を踏み外し、松葉杖の使用を余儀なくされる。素晴らしいのはそうした登場人物の重心の変化が、彼女の人物像を表すと同時に、彼女を取り巻く状況の変化を鮮やかに表現している点にある。

『ドライブ・マイ・カー』(2021)、『寝ても覚めても』(2018)、『親密さ』(2012)といった作品において、演劇が重要な役割を果たしていることからわかる通り、濱口監督は劇中劇を効果的に使用するのが上手い。『ハッピーアワー』では、第3部における新人小説家の朗読会のシーンに劇中劇が見出せる。

 注目すべきは、このシーンで読み上げられる小説のテーマが、人が重心を支える上で重要な役割を果たす「足の関節」であるという点だろう。ドキュメンタリーと見紛うリアルな演出を貫徹する一方、一つのテーマを反復・変奏するシナリオは練りに練られており、完成度の高いフィクションにもなっている。

 ドキュメンタリーとフィクションが高い次元で共存した本作は「5時間でもまだ短い」と思わせるほど面白い。

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