217分の奇跡

『EUREKAユリイカ』(2001)

役所広司
役所広司【Getty Images】

監督:青山真治
キャスト:役所広司、宮崎あおい、宮崎将

【作品内容】

 九州の地方都市でバスジャック事件が発生し、多くの乗客が殺害された。生き残った運転手の沢井(役所広司)と兄妹は心に深い傷を負う。2年後、町に戻った沢井に連続殺人の疑いがかけられる中、彼は兄妹の家を訪ね、一緒に暮らし始める。

【注目ポイント】

 上映時間217分。その長さに一瞬たじろぐ人もいるかもしれない。だが、第53回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞とエキュメニック賞を受賞した、2000年代以降の日本映画を代表する傑作である『EUREKA ユリイカ』は、トラウマを抱えた人物が前を向くまでの過程を真摯に見つめるために、3時間以上もの時間が費やされており、見終わった後、多くの者が「とんでもなく凄い映画を観てしまった」と打ちのめされるに違いない。

 物語の中心となるのは、バスジャック事件の生還者である運転手・沢井(役所広司)と、同じく生き延びた兄妹・直樹(宮﨑将)と梢(宮﨑あおい)。深い喪失を抱えた彼らは、それぞれ孤立のなかで時間を過ごし、やがて再会する。

 事件から2年、書き置きを残して姿を消していた沢井は、親友の紹介で土方の仕事に就くが、近所で起きた女性連続殺人事件の容疑をかけられ、再び世間の偏見に追い詰められる。一方の兄妹も、母は家を出て父は事故死。残された家と保険金だけを頼りに、学校にも行かず二人だけで生きている。幼い彼らが抱え込んだ孤独と不安は言葉で吐き出すことも出来ずにいた。

 名優・役所広司のキャリアハイとも言える素晴らしい演技、当時14歳の宮﨑あおいの透明感のある佇まい、ドキュメンタリー出身のたむらまさきカメラマンが捉えた美しい光と超絶技巧のカメラワーク、そして脚本も手がけた青山真治監督による、ミステリー要素を巧みに取り入れたストーリーテリングなど、本作の美点を挙げれば枚挙にいとまがない。

 本作が描くのは、「癒しには時間がかかる」という当たり前だが見落とされがちな真理だ。焦りを煽る現代社会にあって、本作は傷とともにある時間の尊さを静かに提示してくる。沈黙を受け入れ、喪失と向き合いながら再生へと進んでいく、その過程こそが、この長尺の真の価値なのである。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!