左遷、陰謀、隠蔽…企業のリアルを描いた日本の裏側

『沈まぬ太陽』(2009)

渡辺謙
渡辺謙【Getty Images】

監督:若松節朗
キャスト:渡辺謙、三浦友和、松雪泰子、鈴木京香、石坂浩二

【作品内容】

 巨大企業・国民航空の労働組合委員長・恩地(渡辺謙)は、職場改善を求め会社と対立。パキスタン、イラン、ケニアと10年間海外を転々とする懲罰人事を強いられるが、本社復帰後、まもなく自社のジャンボ機が墜落する未曽有の事故に直面する。

【注目ポイント】

 長尺映画に構える人も多いが、『沈まぬ太陽』はその時間を存分に使い切った稀有な作品といえる。物語の濃度は時間に比例し、終始観る者を引き込む。原作は山崎豊子による社会派小説。日本航空をモデルにしたフィクションながら、徹底した取材をもとに実在の人物や事件を再構成している。

 主人公・恩地元(渡辺謙)は、労働組合の闘士として会社と対立し、10年以上も海外へ左遷。それでも信念を曲げず、イラン・ケニアなど異国の地で働き続ける姿が描かれる。

 恩地の実在モデルとなったのは、日本航空の元労組委員長・小倉寛太郎氏である。実際に彼は、組合活動に真摯に取り組んだことで海外勤務を命じられ、会社との長く厳しい対立を経験した。その半生が、本作の物語の骨格となっている。

 物語の中盤、国航ジャンボジェット機墜落事故(モデルは1985年のJAL123便墜落事故)が発生。恩地は遺族係として現地に向かうが、この描写にはフィクションも含まれる。しかし、遺族と向き合う場面の静かな迫力は、あの日を知る日本人にとって他人事ではないといえるだろう。

 後半は社内改革と内部抗争。かつての盟友・行天(三浦友和)との対立が象徴的に描かれ、正義と出世、信念と妥協が激しくせめぎ合う。

 事故の背景、会社の対応、組織の無責任さ、それらを容赦なく描きつつも、作品は決して感情を煽らない。静かな怒りと、深い哀しみが全編を貫いているからだ。

 本作は、時間をかけてしか伝わらない怒りや誠意、孤独、そして希望が、丁寧に積み重ねられていく。まさに長くなければ描けない重圧な作品となっている。

【著者プロフィール:阿部早苗】

仙台在住の元エンタメニュース記者。これまで洋画専門サイトやGYAOトレンドニュースなど映画を中心とした記事を執筆。他にも、東日本大震災に関する記事や福祉関連の記事など幅広い分野で執筆経験を積む。ジャンルを問わず年間300本以上の映画を鑑賞するほどの映画愛好家。

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【了】

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