辞書作りに人生をささげた編集者たちの物語

『舟を編む』(2013)


松田龍平
松田龍平【Getty Images】

監督:石井裕也
脚本:渡辺謙作
キャスト:松田龍平、宮﨑あおい、オダギリジョー

【注目ポイント】
 三浦しをんの本屋大賞受賞作を原作にした映画『舟を編む』は、のちにアニメやテレビドラマ化もされるなど多方面で展開された名作である。タイトルにある“舟”は、言葉という広大な海を渡るための“辞書”を象徴しており、編集者たちはその航海に必要な舟=辞書を編み上げていくという意味が込められている。

 物語の舞台は、老舗出版社・玄武書房。長年にわたり中型辞書「大渡海」の編纂が計画されているが、変化し続ける言葉を定義するのは一筋縄ではいかず、地味な仕事の性質ゆえの人手不足も手伝い、なかなか計画は前進しない。
 
 そんな中、営業部で浮いた存在だった馬締光也(松田龍平)が辞書編集部にスカウトされる。人付き合いが苦手な彼だったが、周囲の支えを受けながら、言葉に真摯に向き合い、一歩一歩「大渡海」の完成に近づいていく。

 馬締光也を演じた松田龍平は本作の演技で多くの映画賞を受賞。料理人を目指す下宿先の孫娘・林香具矢役に宮﨑あおい、馬締を引き入れる編集部員・荒木公平役に小林薫、宣伝部へ異動後も彼を支える西岡正志役にオダギリジョー、そして中盤から登場する元ファッション誌編集部員・岸辺みどり役に黒木華が扮し、「大渡海」に人生を捧げる老国語学者・松本朋佑を2018年にこの世を去った名優・加藤剛が演じた。

 メガホンを取ったのは、2009年に商業映画で長編デビューを果たした石井裕也。若手に似つかわしくない堂々とした演出ぶりをみせ、完成した作品は興行・批評ともに成功を収め、第86回アカデミー賞外国語映画部門の日本代表にも選ばれた。

 2024年にはNHK-BSでドラマ版が放映され好評を博し、現在はNHK総合でも放送中。ドラマでは新型コロナウイルスによる社会の変化も織り込み、より現代的な辞書作りの姿が描かれている。

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