素人俳優が体現する生活のリアル

『恋人たち』(2015)

リリー・フランキー
リリー・フランキー【Getty Images】

監督:橋口亮輔
脚本:橋口亮輔
キャスト:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、リリー・フランキー

【注目ポイント】

 橋口亮輔監督は、1980年代後半よりPFF(ぴあフィルムフェスティバル)で入選・受賞を重ね、1993年には監督・脚本・主演を兼ねたPFFスカラシップ作品『二十才の微熱』で長編映画デビューを果たす。

 その後のキャリアでは寡作ながらも質の高い作品を生み出し、2001年の『ハッシュ!』(主演:田辺誠一)や、2008年の『ぐるりのこと。』(主演:木村多江、リリー・フランキー)などで数々の映画賞を受賞。確かな演出力と独自のまなざしで、常に観客の心に深く残る作品を送り出してきた。

 本作『恋人たち』は、異なる背景と悩みを抱えた3人の登場人物の人生が交錯する群像劇だ。

 妻を通り魔事件で失い、喪失感と向き合いながら橋梁点検の仕事と裁判に奔走する篠原アツシ(篠原篤)。家庭では姑との軋轢や夫の無関心に悩みながらも、突然現れた男に心を揺さぶられる主婦・高橋瞳子(成嶋瞳子)。そして、学生時代から想いを寄せる友人に気持ちを伝えられずにいる完璧主義の同性愛者であるエリート弁護士・四ノ宮(池田良)。それぞれの静かな葛藤が、淡々と、しかし濃密に描かれていく。

 本作は公開当時、キネマ旬報ベスト・テン第1位や毎日映画コンクール大賞などを受賞し、大きな評価を得た。

 無名ながら確かな存在感を放ったメインキャストの篠原篤、成嶋瞳子、池田良は、本作を機に映画やドラマでの活躍の幅を広げている。日常の中に潜む孤独と再生の兆しを丁寧にすくい上げた、橋口亮輔監督ならではの静かで力強い傑作だ。

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