カンヌが賞賛した現代日本の“日常”
『万引き家族』(2018)
監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
キャスト:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、高良健吾、池脇千鶴
【注目ポイント】
1995年の『幻の光』で長編映画監督として鮮烈なデビューを果たし、『ワンダフルライフ』(1998)、『誰も知らない』(2004)、『そして父になる』(2013)、『海街diary』(2015)、『三度目の殺人』(2017)など、家族や人間の繊細な関係性を描き続けてきた是枝裕和監督。そのフィルモグラフィの中でもとりわけ大きな転機となったのが、本作『万引き家族』だ。
万引きで生計を立てる一風変わった家族の姿を描いた本作は、是枝監督にとってカンヌ国際映画祭での最高賞・パルム・ドールをもたらした記念碑的作品であり、彼のキャリアを国際的に押し上げる決定打となった。また同映画祭では、後年の『怪物』(2023)においても脚本賞を受賞するなど、是枝作品の評価は国内外で不動のものとなっている。
東京の片隅で暮らす柴田治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)の夫婦、その息子・祥太(城桧吏)、信代の妹・亜紀(松岡茉優)、そして治の母・初枝(樹木希林)という、一見ごく普通に見える家族。しかし彼らは血縁では結ばれておらず、それぞれが社会の隙間で生きる者たちだった。ある日、治は寒空の下ひとりでいる少女・ゆり(佐々木みゆ)に出会い、家庭内で虐待を受けていると察し、“保護”という名目で彼女を新たな家族として迎え入れる。
メインキャストは、是枝作品の常連とも言えるリリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、そして名優・樹木希林が集結。さらに池松壮亮、緒形直人、柄本明らが脇を固め、重厚な人間ドラマを支えている。子役の発掘に定評のある是枝監督が見出した城桧吏と佐々木みゆも、観客の心を強く揺さぶる演技を披露した。
第71回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した本作は、日本国内でも46億円を超える興行収入を記録し、異例のロングランヒットを達成。作品の成功を受け、是枝監督は国際的なフィールドへと活動の幅を広げ、フランスで撮影した『真実』(2019)、韓国との共同制作となった『ベイビー・ブローカー』(2022)へとつながっていく。
『万引き家族』は、日本映画の可能性を再確認させると同時に、世界に是枝裕和の名を知らしめた記念碑的作品である。
【著者プロフィール 村松健太郎】
脳梗塞と付き合いも15年目を越えた映画文筆屋。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在各種WEB媒体を中心に記事を執筆。
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【了】