徹底的な役作りで真骨頂を発揮

綾野剛『コウノトリ』(TBS系、2015)

綾野剛(2016年)
綾野剛【Getty Images】

 医療ドラマには様々な医師像が登場する。その中でも、産婦人科という生まれる瞬間を見守る現場を舞台に、静かに深く命と向き合う姿を描いたのがドラマ『コウノドリ』だ。その中心に立っていたのが、綾野剛演じる鴻鳥サクラである。

 サクラは、産婦人科医であると同時に、「BABY」という名のピアニストでもあるという異色のキャラクター。白衣の下に秘めた音楽家としての感受性が、命の重みや患者の心の機微にまでそっと寄り添う姿をいっそう印象づける。

セリフや行動はいつも優しく、穏やかで、患者に寄り添うことを最優先にしていた。「迷惑をかけてもいいじゃない」聴覚障害の妊婦に向けたその一言に、サクラという医師の本質が凝縮されている。

 綾野はこの難役に全てをかけて挑んだ。撮影前には実際の産婦人科の現場を見学し、医療用語の言い回しや所作を学んだだけでなく、演技においても過剰な演出を排し、自然な表情や口調を徹底したという。またピアニストとしての一面もリアリティをもって描くために地道に練習を重ね、演奏シーンに臨んだ。

 音楽監修を務めた清塚信也氏の吹き替え演奏も断ったというエピソードを聞いてからこのシーンを見ると、あまりの完成度に鳥肌が立つこと請け合いだろう。

 リアルな出産シーンや、命の選択に向き合うエピソードの数々が視聴者の心を揺さぶった同ドラマ。その反響は、第2シリーズとなる続編でも高く評価され、高視聴率をキープした。

 続編でも綾野剛演じるサクラは、変わらぬ優しさと使命感を胸に抱きつつも、迷いや葛藤を抱える一人の人間として医師として、さらに深みを増していた。その成熟した演技は、もはや「綾野剛=鴻鳥サクラ」と思わせるほどの説得力があった。

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