権力と裏切りが生む究極の家族ドラマ
『ゴッドファーザー』(1972)
監督:フランシス・フォード・コッポラ
脚本:マリオ・プーゾ、フランシス・フォード・コッポラ
原作:マリオ・プーゾ
出演:マーロン・ブランド、アル・パチーノ、ジェームズ・カーン、ロバート・デュヴァル
【作品内容】
麻薬取引を拒んだことで襲撃され危篤状態となったマフィアのボス、ドン・コルレオーネ(マーロン・ブランド)。事件を機に裏社会と距離を置いていた三男マイケル(アル・パチーノ)が抗争に身を投じていく。
【注目ポイント】
上映時間175分。一般的な映画が2時間以内に収まるなか、『ゴッドファーザー』は3時間近い長尺でありながら、その長さがむしろ心地よく感じられる稀有な作品だ。物語は、ニューヨークのイタリア系マフィア、コルレオーネ・ファミリーの興亡を描く。冷静沈着なドン・ヴィトーと、その息子マイケルの変貌が軸となる。はじめは堅気の道を歩んでいたマイケルが、やがて父の跡を継ぎ、血と裏切りにまみれた権力の世界に足を踏み入れていく。その過程こそが、本作最大の見どころといえるだろう。
冒頭、娘を傷つけられた男が復讐を懇願する薄暗い部屋と、その外で繰り広げられるにぎやかな結婚式。光と影のコントラストだけで、ドンが生きる二重の世界が鮮やかに浮かび上がる。やがて、映画史に残る衝撃の場面。プロデューサーのベッドに馬の首が置かれる事件が起き、ファミリーの冷酷な手段があらわになる。
中盤では、マイケルが敵をレストランで射殺するシーンが訪れる。張り詰めた沈黙と、表情の変化、そして銃声。青年だった彼が一線を越えるその瞬間が、完璧な演出で描かれる。
そして終盤、洗礼式の神聖な映像とファミリーの敵を一斉に暗殺する冷酷な場面が交錯する名シーンが訪れる。聖なる誓いと地獄の決断が同時に行われるという、皮肉と美学の極致。マイケルは名実ともにゴッドファーザーとなるのだ。
すべてのシーンが次の展開への布石となり全てが精緻に構成されている本作。その長さは決して冗長ではなく、むしろ物語の濃度を高めるために必要な時間といえるだろう。