愛と裏切りが交錯する実録犯罪劇

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(2023)

レオナルド・ディカプリオ
レオナルド・ディカプリオ【Getty Images】

監督:マーティン・スコセッシ
脚本:エリック・ロス、マーティン・スコセッシ
原作:デヴィッド・グラン
出演:レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ、リリー・グラッドストーン、ジェシー・プレモンス、ブレンダン・フレイザー

【作品内容】

 オクラホマに移住したアーネスト(レオナルド・ディカプリオ)は先住民のモーリー(リリー・グラッドストーン)と結婚するが、周囲で不可解な連続殺人が発生。捜査が進む中、事件の背後に隠された衝撃の陰謀が明らかになっていく。

【注目ポイント】

 上映時間は3時間26分。これだけ聞くと、多くの人が少し尻込みするかもしれない。だが、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』はその長さを感じさせない稀有な映画だ。むしろ、物語の奥行きと登場人物たちの心理を丁寧に描き切るためには、この長尺が必要不可欠だったとすら思わせる。

 舞台は1920年代、オクラホマ州。石油により突如として巨万の富を得た先住民族オセージ族が、白人たちによって次々と殺されていく「オセージ連続殺人事件」を描いた実録犯罪劇である。主人公アーネスト(レオナルド・ディカプリオ)は、地元の有力者である叔父ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)に導かれ、オセージの女性モーリー(リリー・グラッドストーン)と結婚するが、その関係は愛と裏切りが交錯する複雑なものとなっていく。

 本作が長尺でありながらも惹きつけられる理由のひとつは、序盤から繊細に描かれる文化と風景の力ではないだろうか。オセージ族の伝統的な儀式、黒い液体が大地から吹き上がる石油、結婚式の祝祭。こうしたビジュアルが、物語のはじまりを神話のような重みで包み込む。

 そして、静かに進行する殺人の連鎖。恐ろしいのは、その計画が日常の一部として淡々と語られる点だ。さらに緊張感を支えるのは俳優陣の演技だけではない。音楽もまた大きな役割を果たしている。ロビー・ロバートソンのスコアは、極めてシンプルな音の反復によって、鑑賞中ずっと張り詰めた空気を維持し続ける。

 後半ではFBIの捜査官が登場し、物語は法廷劇としても緊迫感を増していく。正義が追いつくとき、果たしてそれは救済となるのか。それとも、すでに手遅れだったのか。重い問いを残しながら、映画はやがて、1本のラジオ劇へと着地する。そのラストシーンがまた見事で、歴史がどのように語られ、消費されていくかを静かに突きつける。

【著者プロフィール:阿部早苗】

仙台在住の元エンタメニュース記者。これまで洋画専門サイトやGYAOトレンドニュースなど映画を中心とした記事を執筆。他にも、東日本大震災に関する記事や福祉関連の記事など幅広い分野で執筆経験を積む。ジャンルを問わず年間300本以上の映画を鑑賞するほどの映画愛好家。

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