アニメ演出と浮世絵の意外な関係
水の呼吸のルーツは葛飾北斎?
『鬼滅の刃』の人気を支える大きな要因のひとつが、アニメの圧倒的な作画クオリティだ。制作を手がけるufotableが描き出す鮮やかな色彩と滑らかな動きは、一度見たら忘れられないほど印象的である。
特に目を奪われるのが、迫力満点の戦闘シーン。炭治郎や柱たちが日輪刀を振るう瞬間に広がるエフェクトは、国内外から高い評価を受けている。そのビジュアル表現の背景には、日本を代表する芸術家たちの影響がある。
代表例が、浮世絵師・葛飾北斎だ。世界的な画家ゴッホにも影響を与えた北斎の作品は、富嶽三十六景など、力強い波の描写で知られる。この波の表現が、「水の呼吸」の演出に巧みに取り入れられているのだ。技の発動と同時に広がる波は、まさに潮のうねりそのものを思わせる。
さらに、煉獄杏寿郎の「炎の呼吸」も歴史的な日本画に着想を得ている。映画『無限列車編』のパンフレットによれば、「鳥羽・伏見の戦い」を描いた錦絵が参考にされたという。おそらく、月岡芳年の「慶応四年戊辰正月三日 城州於伏見戦争之図」がモデルだろう。燃え盛る炎の表現は、まるで画面から熱気が伝わってくるような迫力を放っている。
このように、『鬼滅の刃』のアニメは、浮世絵や日本画の意匠を巧みに取り入れながら、伝統美と最新技術を融合させた唯一無二の映像表現を実現している。作品世界をより深く味わうには、戦闘シーンと日本美術の共通点を探してみるのも一興だ。