主人公のストレスと犯人の苛立ちが生むダブル胸糞構造
『ドント・ムーブ』(2024)
監督:ブライアン・ネット アダム・シンドラー
出演:フィン・ウィットロック、ケルシー・チャウ、モレイ・トレッドウェル、ダニエル・フランシス
【作品内容】
アイリスは幼い息子を自らの不注意で亡くし、失意の果てに崖から飛び降り自殺をしようとしていた。そこにたまたま居合わせたリチャードという男と会話したことで、アイリスは自殺を踏みとどまる。
しかし、リチャードは豹変し、アイリスに筋弛緩剤を打つ。アイリスはなんとかその場を逃げ出すが、徐々に体の自由が奪われていってしまう。全身の神経組織が停止するまであと数十分。アイリスは逃げ切ることが出来るのか…。
【注目ポイント】
徐々に体の自由が奪われていく中で、異常者から逃げ切れるかというワン・コンセプトで展開するサバイバル・サスペンスである。時間経過とともに全身が動かなくなり、声すらも出せなくなる。もはや絶体絶命という状況で、たまたま通りかかった農夫に助けられるが、その家に犯人が何食わぬ顔で訪れる。そいつが犯人であるにもかかわらず、伝えることができない。「動けない」という設定をとことん活用し、様々なサスペンスが展開される。
この作品の胸糞ポイントは、犯人の言動に尽きる。典型的なサイコパス的な人物設定ではあるが、どうにも頭が悪く、「綿密な計画」と言いながらも穴が多い。不測の事態で追い詰められると、パワープレイに走ってフィジカルに殺しまくってしまうため、せっかくのコンセプトがブレていってしまう。
主人公側の視点では「動けない」というストレス、犯人側の視点では「詰めが甘い」という苛立ちが募るため、双方向で胸糞になれる作品である。