現代に残る奴隷制の闇を描くブラジル発の衝撃作
『プリジョネイロ』(2021)
監督:アレクサンドル・モラット
出演:クリスチャン・マリェイロス、ロドリゴ・サントロ、ブルーノ・ホーシャ、ヴィトル・ジュリアン、ルーカス、オランミアン
【作品内容】
ブラジルの田舎で最底辺の暮らしをしているマテウスは、いい仕事があるということで同郷の少年たちと都会のサンパウロへ向かうが、着いた先は場末の廃品処理場だった。
雇い主のルカは暴力でマテウスたちを支配し、過酷な労働と奴隷のような暮らしを余儀なくされる。命の危険を感じながらも脱出を企てる4人だが、マテウスはその仕事ぶりをルカに認められ、徐々に自由と権力を与えられていく…。
【注目ポイント】
ブラジル・サンパウロの底辺社会で繰り返される、現代の奴隷制ともいえる搾取の実態をリアルに描いた暗黒ドラマである。田舎から出てきた若者が都会の闇に取り込まれ、過酷な労働に従事していく姿は、日本からすれば遠い国の出来事と思いがちだ。
しかし、闇バイト問題や犯罪者集団による拉致・監禁事件などが頻発している現状を考えると、身近に起こってもおかしくない設定である。
本作のポイントは、被害者だった主人公マテウスがそれなりに仕事ができたことである。過酷な環境ではあるが、雇い主ルカに従っていれば自由や金が手に入る。廃品回収だけでなく、人身売買などの闇の仕事も手伝うようになると、さらなる葛藤が生じるが、その分利益も大きくなる。そばで見ているとルカにも家族がいて、それほど悪いやつではないのではと思える。しかし、それは奴隷労働に耐えながら脱出を誓い合った仲間たちを裏切ることになる。
どんな社会でも、そこに組み込まれるとシステムに流され、善悪の区別や大事なものを見失ってしまう。誰も搾取のループを断ち切れないという胸糞悪い現実が、ここに描かれている。