原作の魅力が消え別物になってしまった理由
『シティー・ハンター』(1993)
監督:ウォン・ジン
脚本:ウォン・ジン
原作:北条司
出演:ジャッキー・チェン、後藤久美子、ジョイ・ウォン
【作品内容】
私立探偵の冴羽(ジャッキー・チェン)は失踪した社長令嬢・清子(後藤久美子)の捜索を依頼され、香(ジョイ・ウォン)と共に豪華客船へ。だが船はテロリストに占拠され、冴羽は乗客救出と清子救出を懸けた戦いに挑む。
【注目ポイント】
北条司による漫画『シティーハンター』は、1985年から1991年まで『週刊少年ジャンプ』で連載され、全世界で5,000万部以上を売り上げた大ヒット作だ。銃撃戦やハードボイルドな依頼の数々を軸に、主人公・冴羽獠が女性に弱すぎる“おバカ”な一面を見せるこのギャップが人気のひとつでもある。アニメ版は日本国内はもちろんのこと、海外でも熱狂的なファンを獲得した。
そんな名作を香港が実写化したのが、1993年公開の本作である。主演は世界的アクションスターのジャッキー・チェン、監督は香港映画の奇才ウォン・ジン。香役にジョイ・ウォン、日本からは後藤久美子も参加し、豪華キャストが顔を揃えた。舞台は豪華クルーズ船。失踪した令嬢の行方を追う獠が、突如現れたテロリストたちと船上で大乱闘を繰り広げる――という筋書きだ。
しかし、この映画は原作ファンの期待を真っ向から裏切ることになる。冴羽獠の代名詞である銃撃戦はほぼ影を潜め、代わりにジャッキーお得意のカンフーアクションが前面に押し出された。さらに、ストーリー進行を中断する突発的なギャグや、突然始まる『ストリートファイター』のパロディなど、カオスな演出が全編に散りばめられている。原作のハードボイルドさや人間ドラマはほとんど感じられない。
本作が酷評結果となったのは原作のエッセンスを削ぎ落とし、製作国側のスター性と娯楽志向に全振りした結果、原作ファンの求める冴羽獠ではなく、ジャッキー・チェン版なんちゃってシティーハンターになってしまったからであるといえるだろう。
『シティーハンター』はその後も立て続けに実写化されている。ひとつは、原作ファンを公言するフィリップ・ラショーが監督・脚本・主演の三役を務めた2019年のフランス版『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』。もうひとつは、2024年にNetflixで配信された鈴木亮平主演の日本版だ。いずれも描写の随所に原作への深いリスペクトが感じられ、ファンからの評価も上々。その出来栄えが、逆に1993年のジャッキー・チェン版のクオリティの低さを際立たせる結果となっている。