物語の核を失わせた大胆すぎる設定変更
『頭文字D THE MOVIE』(2005)
監督:アンドリュー・ラウ、アラン・マック
脚本:荘文強
原作:しげの秀一
出演:ジェイ・チョウ、アンソニー・ウォン、エディソン・チャン、鈴木杏
【作品内容】
豆腐屋の息子・藤原拓海(ジェイ・チョウ)は配達で鍛えた走りで、知らぬ間に驚異のドライビング技術を習得していた。
高橋涼介(エディソン・チャン)や中里毅(ショーン・ユー)ら峠の猛者との出会いで才能が覚醒し、父や仲間の期待を背に、熱きドリフトバトルを繰り広げる。
【注目ポイント】
しげの秀一の人気漫画『頭文字D』は、1990年代後半から2000年代にかけて、峠のバトルと緻密な車の描写で一世を風靡した作品だ。その実写版として2005年に香港で製作されたのが、ジェイ・チョウ主演の『頭文字D THE MOVIE』である。
舞台は日本の群馬県ながら言語は広東語主体。キャストも香港や台湾のスターが中心となったため、公開当初から原作ファンの間で違和感の声が上がった。
物語は豆腐店の息子・藤原拓海が配達で鍛えたドライビング技術を武器に峠バトルで成長していく王道展開だが、原作とは大きく異なる改変も目立つ。特に父・文太のキャラクターは大きく変わっており、原作の寡黙で達観した元走り屋とは異なり、映画版ではアンソニー・ウォン演じる酒好きのアルコール中毒の暴力男として描かれている。このため、原作にあった師弟関係の緊張感は薄れてしまっている。
とはいえ峠の走行シーンは見どころの一つで、実車を使い複数のカメラでドリフトを捉える香港アクションの技術が光る。が、一方で日常パートは薄味。キャラクター改変の影響もあり感情移入しにくい。また、『頭文字D』のトレードマークであるユーロビートがこの映画ではほとんど使われていないことも作品の世界観を大きく損ねたといえるだろう。
なお、第42回金馬賞では助演男優賞と最優秀新人出演者賞を受賞し、第25回香港映画金像賞でも助演男優賞・最優秀新人出演者賞を含む4部門を制覇するなど評価は高かった。しかし、熱心な原作ファンとの間に横たわる溝は最後まで埋まらなかった。