グリム童話を下敷きにした異色の青春サスペンス
『クリミナル・ラヴァーズ』(2000年)
監督:フランソワ・オゾン
キャスト:ナターシャ・レニエ、ジェレミー・レニエ、ミキ・マノイロビッチ、サリム・ケシュシュ、ヤスミン・ベルマディ
【作品内容】
ある夜、体育館でアリス(ナターシャ・レニエ)とリュック(ジェレミー・レニエ)はサイード(サリム・ケシュシュ)と鉢合わせる。アリスが目配せした瞬間、リュックはナイフでサイードを刺し殺す。2人は死体を車で森へ運び、穴を掘って埋めるが…。
【注目ポイント】
作品の完成度、観客の評価、自身の作家性とのズレなど様々な理由から監督は過去の作品を振り返り、「あれは失敗だった」と語ることがある。フランスの鬼才フランソワ・オゾン監督も、長編2作目の『クリミナル・ラヴァーズ』を制作後に後悔していると明かしている。
物語は、高校生カップルのリュックとアリスの悪夢的な体験を描く異色の青春サスペンス。リュックはアリスにそそのかされ、同級生を殺害。死体を埋めるために森へ入った2人は道に迷い、やがて森の奥に住む謎の大男に捕らえられてしまう。
映画はグリム童話「ヘンゼルとグレーテル」を下敷きにしながらも、その内容は極めて倒錯的で不穏だ。リュックは首輪につながれて大男の奴隷となり、アリスは地下室に監禁される。殺人と逃走、そして森での監禁生活を通じて、2人の関係は歪み、思春期特有の性と暴力、内面の闇が映し出される。
オゾン監督自身、2007年のインタビューで批評的にも興行的にも期待外れだったと述べ、自身の限界を痛感した作品だと明かし、「失敗作」と振り返る。一方で、この経験を「自分を変えるチャンス」とも捉えており、後の作品作りにおける重要な教訓になったとも語った。
監督が抱いた後悔は、映画における作り手の意図と観客の受け止め方とのズレを浮き彫りにする。監督が失敗作と断じた作品でも、観客にとっては忘れがたい1作になることがある。『クリミナル・ラヴァーズ』も、まさにその典型だと言えるだろう。
【著者プロフィール:阿部早苗】
仙台在住の元エンタメニュース記者。これまで洋画専門サイトやGYAOトレンドニュースなど映画を中心とした記事を執筆。他にも、東日本大震災に関する記事や福祉関連の記事など幅広い分野で執筆経験を積む。ジャンルを問わず年間300本以上の映画を鑑賞するほどの映画愛好家。
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