芸道に生きる男たちの宿命と執念
『国宝』
監督:李相日
脚本:奥寺佐渡子
キャスト:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜
【作品内容】
任侠の家に生まれた喜久雄(子供時代:黒川想矢)は父を失い、歌舞伎の名門・花井家に引き取られる。跡取りの俊介(横浜流星)と親友でありライバルとして舞台に挑むが、当主が代役に喜久雄(吉沢亮)を指名したことで運命が揺らぎ始める。
【注目ポイント】
2025年上半期、日本映画界を席巻した作品といえば、吉田修一原作を映画化した『国宝』(6月6日公開)だろう。監督は『悪人』『怒り』に続いて吉田作品とタッグを組む李相日。脚本は『サマーウォーズ』(2009)の奥寺佐渡子が担当し、芸道に生きる人間の運命を重厚に描き出した。
物語の主人公は、任侠の家に生まれながら父を亡くした喜久雄(吉沢亮)。上方歌舞伎の名門に引き取られた彼は、天性の才能を発揮し、やがて“国宝”と称される存在へと成長していく。彼の前に立ちはだかるのは、名門の御曹司・俊介(横浜流星)。二人は互いを高め合いながらも、血筋や才能をめぐる運命の対立に翻弄されていく。さらに、彼の芸を見抜く歌舞伎当主を渡辺謙が演じるなど、豪華キャストが揃い踏みした。
映像世界を支えるスタッフ陣も超一流だ。カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した『アデル、ブルーは熱い色』(2013)でカメラを担ったソフィアン・エル・ファニが撮影を担当。美術は『キル・ビル』(2003)をはじめ、世界の舞台で活躍する美術監督・種田陽平。
超一流のスタッフによる作りこまれた画面は、歌舞伎ならではの表現の機微をヴィヴィッドに伝えることに成功している。また、音楽には、関西圏を代表するアーティスト集団・ダムタイプのメンバーである原摩利彦が参加し、壮大で繊細な旋律が物語を包み込む。
興行面でも記録的な成果を収めている。公開73日間で観客動員747万人、興行収入105億円を突破。これは邦画実写歴代3位にあたる大快挙であり、まさに“国宝”級の社会現象を巻き起こした。
才能と宿命、芸の世界に生きる者たちの執念を描いた『国宝』は、日本映画の底力を国内外に示した作品である。2025年上半期を振り返るとき、最も強烈に記憶に残る一作であることは間違いない。