青春の痛みと儚さをリアルに描く等身大のラブストーリー

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』

映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』
©2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

監督:大九明子
脚本:大九明子
キャスト:萩原利久、河合優実、伊東蒼、黒崎煌代、安齋肇

【作品内容】
 大学生の小西徹(萩原利久)は冴えない日々を送っていたが、女子大生・桜田花(河合優実)と出会い心惹かれる。少しずつ距離を縮めていく2人だったが、思わぬ出来事が立ちはだかる。

【注目ポイント】
 2025年上半期に公開された映画といえば『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(4月25日公開)も忘れてはならない。

 原作は、お笑いコンビ「ジャルジャル」の福徳秀介が自身の実体験を描いた同名小説。メガホンを取ったのは、『勝手にふるえてろ』(2017)『私をくいとめて』(2020)の監督であり、何より出色の出来栄えを誇ったNHKドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(2023)で河合優実を起用し、最良の芝居を引き出した大九明子が務めている。

 冴えない大学生活を送っていた小西徹(萩原利久)は、ある日、お団子頭の女子大生・桜田花(河合優実)と出会い心惹かれ、2人は少しずつ距離を縮めていく。一方で、銭湯のバイト仲間・さっちゃん(伊東蒼)もまた、彼に片想いをしていた。そんな複雑な人間関係が展開される。

 この映画、爽やかな青春恋愛劇と見せかけて、実は全く爽やかではない。主人公が自分や身近な人の感情を見落としている、その不器用さが生々しく響く。

 また、この映画、決して派手な作品ではない。しかし、驚くべきことに、肝となる場面における演出はきわめてオリジナリティに富んでおり、一度観たら二度と忘れられない瞬間にあふれている。たとえば、真夜中に伊東蒼が萩原利久に告白するシーンでは、数分にもおよぶ長広舌をふるう伊東の表情をあえて影で見えなくすることで、画面は異様な緊張感を帯び始める。

 また、終盤、河合と萩原が縁側で並んで対話をするシーンでは、いつ終わるともしれない長セリフを口にする河合の表情に突然、カメラが寄る。河合の芝居のリズムに寄り添いつつ、あえて逸脱した動きをみせるカメラワークは、物語を超えて、河合優実という稀代の女優を撮る喜びを生々しく映し出し、ドキュメンタリーのような手触りをもたらす。

 本作の素晴らしさは、こうした大胆な演出が決して人物描写を損なわず、むしろ補強している点にある。未見の方はぜひ本作を観て、驚いてほしい。

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