日本映画史に残るカルト作

『追悼のざわめき』(1988)

映画『こんなことがあった』【公式Instagram】
映画『こんなことがあった』【公式Instagram】

監督:松井良彦
脚本:松井良彦
出演:佐野和宏、隈井士門、村田友紀子

【作品内容】
 大阪の廃墟ビルで暮らす青年・誠(佐野和宏)は、愛するマネキン“菜穂子”に女性の遺体の一部を埋め込み、愛の結晶を生み出そうとしていた。やがて廃墟に人々が集まりはじめる。

【注目ポイント】
 1988年に公開された松井良彦監督の映画『追悼のざわめき』は、日本映画史におけるカルト的名作として知られている。舞台は大阪の廃墟ビル。孤独な青年・誠が、愛するマネキン“菜穂子”に生殖器を埋め込み、愛の結晶を生もうとする異常な行為に没入していた。やがて、菜穂子に不思議な生命が宿り始める。

 本作は、近親相姦、食人、強姦、差別といった過激なテーマが渦巻き、公開当初から観る者の賛否を二分した。

 誠の周囲には矮人の兄妹や浮浪者など、社会から虐げられて生きる人々が集まり、そこに生まれる狂気と共鳴する姿をモノクロ映像が鮮烈に映し出していく。150分に及ぶ長尺にもかかわらず、緻密な構成と独特の演出により、アンダーグラウンド映画として特異な位置を確立した作品だ。

 1983年頃に松井自身によって書き上げられた脚本は、映像化不可能と言われ、奇才・寺山修司すら「この脚本が映画になれば、スキャンダルを起こすだろう」と語ったという。完成までに3年の歳月を費やし、1986年にようやく撮影を終えて映画化された。

 しかし、現在ではほとんど観ることができない。2007年に発売されたDVDも現在は製造中止となっており、中古市場では高額取引されている。さらに過激な内容により地上波放送は一切されず、動画配信サービスでも未配信であることが大きな理由だ。

 2007年にデジタルリマスター版が公開されたものの、その後の上映はほとんどない。現在、鑑賞できる機会は極めて少ないといえるだろう。

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