トラウマ級の特殊効果がお蔵入り

『スウィートホーム』(1989)

宮本信子
宮本信子【Getty Images】

監督:黒沢清
脚本:黒沢清
出演:宮本信子、山城新伍、NOKKO、古舘伊知郎

【作品内容】
 ある日、テレビ取材班は幻の壁画を追って、故・間宮画伯の屋敷を訪れる。だが取材を始めた途端、彼らは次々と惨劇に巻き込まれていく。

【注目ポイント】
 映画ファンやコレクターの間で、近年ますます価値が高騰している作品のひとつに『スウィートホーム』(1989年公開)がある。黒沢清監督がメガホンを取り、製作総指揮には伊丹十三を迎えたこの作品は、特殊メイクに『エクソシスト』(1973)のディック・スミス、壁画美術に寺山修司との仕事で知られる宇野亜喜良を配した、豪華布陣で挑んだ本格ホラーだった。

 出演は宮本信子、山城新伍、NOKKO、古舘伊知郎ら個性的な顔ぶれが揃い、公開当時も大きな話題を集めた。

 物語は、伝説の画家・間宮一郎の未発表壁画を探すテレビ取材班が、彼の邸宅跡に足を踏み入れるところから始まる。次々と起こる怪現象、過去の惨劇にまつわる怨念、そして屋敷に潜む恐怖に翻弄される人々の姿を描いている。

 そんな本作は、日本映画としては異例の本格的特殊効果を駆使したホラーであり、のちに『バイオハザード』シリーズに影響を与えたとも言われる。

 しかし、この映画は現在ほとんど鑑賞できない封印作品として知られている。その背景には、ビデオ化を巡る裁判問題がある。劇場公開後、東宝が発売したVHSやレーザーディスクの編集や追加報酬をめぐり、黒沢監督が伊丹プロと東宝を相手に訴訟を起こした。結果として黒沢側は敗訴したが、このトラブルを機にソフト化や再放送、配信といったメディア展開が事実上停止してしまったのである。

 そのため、現在市場に存在するのは初期に発売されたVHSとレーザーディスクのみ。DVD化も配信も一切されていないため、視聴手段は極端に限られている。結果として中古市場ではVHSが数万円で取引されるケースもある。ゆえに作品自体の希少性がコレクター熱をさらに高めているといえるだろう。

【著者プロフィール:阿部早苗】
仙台在住の元エンタメニュース記者。これまで洋画専門サイトやGYAOトレンドニュースなど映画を中心とした記事を執筆。他にも、東日本大震災に関する記事や福祉関連の記事など幅広い分野で執筆経験を積む。ジャンルを問わず年間300本以上の映画を鑑賞するほどの映画愛好家。

【関連記事】
“お蔵入り”の真相がヤバい…制作中止になった幻の海外映画は? 白紙になった作品5選
ファンがっかり…製作中止になった幻の日本映画は? 未完の話題作5選
史上最も呪われた映画は? 悲惨なトラブルに見舞われた作品5選【邦画編】
【了】

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!