孤独な男の生き様から愛と死をみつめた
北野映画の到達点
『HANA-BI』(1997)
【作品内容】
不治の病に侵された妻を持つ刑事・西は、ある日、同僚・堀部の好意で張り込みの合間を縫って妻の見舞いに向かう。だが、そのわずかな時間の間に発砲時間が発生。堀部は半身不随になり、妻子にも出て行かれてしまう。犯人を殺して警察を辞めた彼は、治療費や遺族に渡す金をヤクザに工面し、余命いくばくもない妻と旅に出る。
【注目ポイント】
本作は、妻や同僚の死を目の当たりにした刑事の生き様を描くヒューマン・ドラマ。ヴェネツィア国際映画祭で『無法松の一生』(1959年)以来39年ぶりに金獅子賞に輝き、北野の世界的な評価を不動なものとした作品としても知られる。
本作の一番の特徴は、まず登場人物が話さないことだろう。『ソナチネ』(1993年)や『その男、凶暴につき』(1989年)では、登場人物からセリフを取り去ることで内省的で静謐な世界観を描出してきた北野だが、本作ではこの描写をさらに先鋭化。言葉が介在しない愛のかたちと、死の十字架を背負った男の重さを巧みに表現している(特に中盤の銀行強盗のシーンは必見)。
後半の「道行き」のシーンでは、打ち上げ花火や枯山水など、日本的な情緒を感じさせるモチーフが多数登場する。この辺りは正直海外ウケを狙っているようで少しイヤらしさも感じるものの、見惚れてしまうくらい美しいカットに仕上がっている。
また、随所に北野自身の画が挿入されたり、前半が回想と現実の入り混じった構成になっていたりと、大胆な編集が見られるのも特徴。映画としての格調と北野の遊び心が同居した稀有な作品だ。