虚無的な暴力と、濃厚な死の匂い-
北野武の名を世界に知らしめた傑作
『ソナチネ』(1993)
【作品内容】
東京でヤクザ稼業を営む村川組組長・村川は、ある日、恩義ある親分から沖縄の抗争に加勢するよう頼まれ、部下の片桐やケンとともに沖縄へ向かう。しかし彼らが来たことで抗争は激化。一人、また一人と手下たちが命を落としていく。海辺の廃屋に身を寄せた彼らは、一転童心に帰り、他愛もない遊びを繰り広げる。
【注目ポイント】
本作は、石垣島を舞台にヤクザたちの生態を描いた作品。カンヌ国際映画祭のある視点部門に出品されたほか、イギリスBBCの「21世紀の残したい映画100本」に選出され、ヨーロッパのキタノ人気に火をつけた作品としても知られている。
北野映画史上最高傑作の呼び声が高い本作。とりわけ注目は、後半の海辺のシーンだろう。暇を持て余し海辺でロシアンルーレットや人間紙相撲に講じる彼らのもとに、彼らの遊びを邪魔するかのように殺し屋が放たれる。抜けるように青い沖縄の空と海、唐突に訪れる死のコントラストが、作品に凄みを与えている。
また、バイオレンス描写も独特。スナックでの銃撃戦のシーンでは、村川たちは逃げも隠れもせず、ひたすら棒立ちで銃を撃ち続ける。その姿はまるで「突っ立った死体」であるかのような異様さを醸し出している。
なお、北野は本作の制作から2年後、バイク事故を起こし瀕死の重傷を負う。後に「バイク事故は自殺だった」とも述べている北野。それを考えると本作は、彼のギリギリの死生観が現れた作品だと言えるかもしれない。