「青山真治監督の言葉に今でも助けられている」注目の俳優・佐々木詩音が語る、今までとこれから。ロングインタビュー【前編】

「表面的な演技はしたくない」
映画『裸足で鳴らしてみせろ』でみせた新境地

―――2022年公開の『裸足で鳴らしてみせろ』は、工藤監督と佐々木さんの2回目のタッグ作となりました。本作で佐々木さんは主演を務めておられます。主演のオファーをもらっ
た時、どんなお気持ちでしたか？

「実は最初、断ろうと思っていたんです。脚本も読んで、企画の規模も知った上で、僕じゃない方がいいんじゃないかと直接伝えました。それから、工藤監督と話をする機会が何度かあったのですが、その度に『詩音くんにやってほしい』と言われました。

それからシナリオを何度も読んでいるうちに『この機会を逃したら、今後自分が精一杯できる役は一生来ないんじゃないかな』と思ったんです。そうした経緯があり、賭けではあったのですが出演を決めました」

―――『裸足で鳴らしてみせろ』では、佐々木さん演じる直己と、諏訪珠理さん演じる槙が、身体をぶつけ合うシーンが何度も登場します。特定の感情に還元できないところが観ていてスリリングでした。脚本のト書きにはその時の気持ちは書かれていたのでしょうか？

「ト書きには書かれていなかったのですが、前後のシーンでお互い感情が高まってきているというのは察することができたので、『こうなんじゃないかな』と想像しながらやりますた。

アクション監督さんが動きを設計しているのですが、身体の動きから感情が引き出される感覚があって。今まで体験したことのない気持ちになりました」

―――直己の役は佐々木さんへの当て書きだったのでしょうか。

「どうなんでしょう。最初は当て書きじゃなかったと思うんですけど、監督が『書いているうちに直己の役は詩音くんしか考えられなくなった』と言ってくれて。工藤監督とは、2人で沈んだり、上がったり、悩んだり、落ち込んだり、盛り上がったりと共感できる部分が多いんです。

彼女はパッションを大事にしているので、僕の内面的な部分に共感してオファーしてくれたんだと思います」

―――工藤監督とは深い部分で価値観を共有されているんですね。『オーファンズ・ブルース』と『裸足で鳴らしてみせろ』で、工藤監督の演出に違いはありましたか？

「良い意味で変わってない部分が多かったですね。悩みながら、そしてその悩みを隠そうとせずに一緒に考えてくれました。

彼女のチャーミングなところは、いい時はOKの声がめちゃくちゃデカいんですよ（笑）。ダメな時は眉間にシワを寄せながら近づいてくるんですけど、僕と相手役の珠理くん（柳瀬槙役）とは同じシーンが多かったので、監督の様子を見て『これもう1回だな』と2人で察するようになっていました（笑）」

―――『裸足で鳴らしてみせろ』では難しい役を演じておられますが、役作りをする上で意識した点はありますか？

「自分は元々芝居が上手い人間ではなく、技術がある訳ではないと思っていて。自分に近い部分を見つけて、役を引き寄せてしまうところがあります。直巳というキャラクターには自分と重なる部分が沢山あったので、直巳と心の中で対話をしながら台本を読んでいました」

―――自分と役の共通項を見出して、心で理解していくような感じでしょうか？

「表面的な演技はしたくないという思いがあります。役をできるだけ多面的に、あるいは立体的に捉えることを意識しました」

インタビューは後編に続く

1 2 3 4 5