リアリティを追求し入れ歯を抜いてカメラの前に立つ
樹木希林『万引き家族』(2018)
監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林
【作品内容】
東京の下町に建つボロボロの平屋。そこでは初枝(樹木希林)の年金を目当てに、治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)夫婦と、信代の妹の亜紀(松岡茉優)、治の息子の祥太(城桧吏)がひしめき合って暮らしていた。
治は日雇い労働、信代はクリーニング工場のパートとして働いていたが、生活は困窮していて、足りない分は万引きで補っていた。
そんな冬のある日、治は近所の団地の廊下で凍えていた幼い女の子を見つけ、見かねた治は家に連れて帰ることに。両親にネグレクトされていた幼い女の子を、りんと名付け、育てることにする。
しかし、ある事件をきっかけに家族は離れ離れになり、それぞれが抱えていた秘密が明るみに出る…。
【注目ポイント】
第71回カンヌ国際映画祭の最高賞、パルム・ドールを獲得したことで記憶に新しい本作。樹木希林は本作公開の1年後、2019年に惜しまれながらもこの世を去った。
本作の撮影中も体はガンに侵されていたが、最後まで女優として生きた樹木希林。
そんな彼女が本作で行なった役作りは、入れ歯を外して口の周りのシワを強調し、みすぼらしさが滲み出るリアルな姿をカメラにさらけ出すことだった。
「…え?入れ歯を外すだけ?」とお思いだろうか。
ここまで様々な女優の血の滲むような努力を伴う役作りを紹介してきて、肩透かしを食らった者もいるだろう。
だが、自分の外見を気にせずにカメラ前にいられる女優は、そう多くない。名の知れた大物女優であればなおさらである。それはなぜか。普通の女優であれば事務所が許さないからだ。
芸能人は多くのしがらみがあり、事務所所属の女優が悪いイメージを持たれてしまう危険性を回避するために、事務所が“これ以上はできない”と予防線を張ることは日常茶飯事。
だが、樹木希林はマネージャーをつけず、仕事は全て自身で管理していた。だからこそ叶う役作りであった。
しかし自分の外見が悪くなってしまうことに抵抗のない女性はいないだろう。女優という“仕事”だからといって、誰もが身を呈してできるかと言えばそんなことはない。
自分の外見を気にせずに役に真正面から向き合うのは、彼女がホンモノの女優だからこそ成せる所業である。
現に『万引き家族』の芝居は素晴らしいの一言。代名詞でもあるアドリブも自在に繰り出し、それがあまりにも良かったがために、台本に修正が加わったというエピソードは語り草だ。
日本映画史に残る名女優・樹木希林の最後の熱演をぜひ目に焼き付けてほしい。
(文・野原まりこ)
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