昭和のおじさんの人情が詰まった愛車
『コクリコ坂から』(2011)オート三輪車
【作品内容】
1963年初夏。女子高生の松崎海は、横浜の港を一望できる丘に建つ“コクリコ荘”に住んでいる。海は毎朝、戦争で亡くなった元船乗りの父に想いを馳せて、「安全な航海を祈る」という意味の国際信号旗をあげていた。
そんなある日、高校の学級新聞に「旗を揚げる少女」について書かれた詩が、匿名で掲載された。海は、自分のことではないかと驚く…。
【注目ポイント】
タイヤが三輪のトラックであり、1930年代に流行した。劇中ではかつて主流を成した「くろがね」ブランドのオート三輪車が登場。米屋のゲンさんが、主人公の海が暮らす小松崎家へ、お手伝いさんを助手席に乗せ、運転してきたのが最初の出番である。
終盤にて、後に海の交際相手となる風間俊が、両者の父のかつての親友である小野寺善雄に会いに行く場面で、オート三輪車を運転するゲンさんがたまたま路上で遭遇。急ぐ二人を港まで送ってもらうという活躍をみせた。ゲンさんと共に物語を盛り上げた陰の立役者(立役車!?)とも言えよう。
実際のシーンでは、急勾配の坂道を豪快に駆け下りるまでは良かったのだが、港まであと少しというところで渋滞にはまってしまい、二人は港まで走ることに。いまいち大活躍とまでは言い切れないのだが、「すまねぇ」と申し訳なさそうなゲンさんも相まって、ご愛嬌と言ったところか。ゲンさんは序盤でも、送るから乗っていけと海に促しており、彼の人の良さが大いに伝わってくる。
ちなみに、ゲンさんの愛用オート三輪車のナンバープレートは、「5963(ごくろうさん)」といった洒落も利いている。
現在、国内での生産はなく、昭和の古きよき乗り物である。しかし、中国の農村では作業車として、タイでは、タクシーとして使われるなど、日本初の小回りの利く機能性の高い車、今でも愛されている。